第58回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-1] ポスター:運動器疾患 1

Sat. Nov 9, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PD-1-6] 逆行性外側上腕皮弁術を施行した症例の術後管理を目的とした装具療法の経験

川村 慶1, 籠浦 英里子2 (1.松戸市立総合医療センター リハビリテーション科, 2.松戸市立総合医療センター 形成外科)

【緒言】
外傷に対しての治療後に皮膚・軟部組織欠損となる症例は日常でもしばしば経験する.腱や骨露出,プレートの露出が想定される場合は植皮での再建は難しく,皮弁や筋弁での再建が必要となる.通常であれば術後管理としてシーネ固定と高挙位保持とし,皮弁の安静と皮弁の栄養血管に緊張をかけない肢位を保つ.しかし,肘頭部に皮弁を配置する場合はシーネ固定による圧迫と血流障害が懸念され,術後管理に難渋する.今回,術後管理を目的とした装具療法を形成外科医師に提案し,皮弁が無事に生着した後に自宅退院した症例を経験した.リハビリテーション分野における逆行性外側上腕皮弁術後管理に対する装具療法の報告は稀であるため以下に報告する.発表に際し症例より同意と当院の倫理委員会より承認を得ている.
【事例紹介】
70代男性,妻と義理弟と同居,自動車教習所教官で屋内外ADLは自立していた.屋外階段下り中に転倒し,肘頭骨折,右肘挫創および恥骨骨折を受傷した.受傷同日に創外固定とデブリードマンを施行し,右肘皮膚軟部組織欠損に対して局所陰圧閉鎖療法を開始した.恥骨骨折は保存加療となり疼痛範囲内での歩行が許可された.作業療法は第2病日目より介入した.第9病日目に肘頭骨折に対しプレート内固定術,皮膚軟部組織欠損に対しての逆行性外側上腕皮弁を施行した.逆行性外側上腕皮弁は後橈側側副動脈を茎として背側へ120°回転させて右肘頭部を覆うように配置した.
【作業療法評価】
創外固定期間においては末梢部の浮腫はほとんど認めず,肩や手指の可動域も制限なく経過した.疼痛評価はNRSで安静時,体動時共に0~1程度であった.ADLはRENASYS®創傷治癒システム(スミス・アンド・ネフュー社)を装着していたため点滴棒把持ではあったが居室内は自立していた.術後は手背部に浮腫を認め,8の字法にて健側比+18mm,疼痛は安静時にてNRS3,肩の運動時にNRS6と増強を認めた.可動域は肩関節挙上に左右差を認め,疼痛を伴っていた.知覚に関しては術後一時的な痺れを手部に認めたが経時的に改善した.ADLは創部管理の観点から入浴や更衣等に介助を要するも歩行は病棟内自立していた.健側上肢の使用にて食事や排泄,整容等可能となっていた.
【経過と結果】
術直後より三角巾や抑制器具等でポジショニングにて上肢の安静肢位を試みるも難渋した.不動及び抑制による肩関節の痛みが出現し,肩関節の可動域は制限を来した.また,手部の浮腫も増強した.装具療法開始後,鈍的なポジショニングで高挙位を保ちながら肩関節運動の自主トレを指導した.装具による若干の重さを自覚するも疼痛は改善し,肩関節も全可動域の運動が疼痛なく可能になった.装具療法により皮弁部の保護,管理の容易性,対象外関節の自由度獲得が得られた.皮弁は生着し,自宅退院となり外来リハビリへ移行した.
【考察】
逆行性外側上腕皮弁を含む軸型皮弁は茎とする血管のみにより栄養されるため,動脈の血流障害による虚血や静脈の血流障害によるうっ血に注意が必要である.また,一般的に逆行性外側上腕皮弁は特にうっ血が生じやすい.
黒島やVasilescuらは皮弁術後のトラブルとして最も懸念される血流障害を回避するために,安静・保温・疼痛管理といった環境整備が重要と説いている.今回作成した装具療法において環境整備がはかれ,血流障害を回避できただけでなく,二次的な肩関節の疼痛軽減や末梢部の浮腫改善も得られたと考えられる.皮弁の血流が安定するまでの期間は1~2週とされており,我々作業療法士が即席で作製でき,即日に装着できる装具療法は皮弁術後の安静管理に有用である.