[PD-2-2] 早期退院後の復職と余暇活動を想定した意味のある作業活動の効果
【はじめに】
近年の回復期リハビリテーション病棟は,平均在院日数の短縮かつ,早期より退院後の生活を想定した介入が必要である (伊藤,2011).しかし,短期間介入における早期職場復帰(以下復職)を想定した作業療法の報告は少ない.今回,回復期入棟時より早期退院が想定された症例に対し,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を用いて対象者の希望から,共通課題を分析し,意味のある作業に焦点を当てた介入を実施した.結果,退院後早期の復職,余暇活動への意欲向上に繋がったため,以下に報告する.尚,発表に際し症例に署名での同意と倫理委員会の承認を得た(TRC:202307).
【対象】
頚髄症性脊髄症術後の60歳代男性,14病日後に復職支援を目的に回復期リハビリテーション病棟へ転棟.翌日より作業療法6単位施行.職業はデッキ等建築会社経営.COPMにて,退院後の生活において2つの希望が聞かれた.1つは早期復職における道具操作獲得(重要度10/遂行度1/満足度1)と,もう1つは鉄板を加工して制作する鍛冶芸術の美術展覧会への出展(重要度8/遂行度1/満足度1)であった.しかし,「来年の出展は出来ない」と悲観的発言があった.身体機能(右/左)は,Simple for Test Evaluating Hand Function(STEF):83/91点(減点項目;巧緻性全般),表在感覚:中等度鈍麻(左右差なし),握力:22.6/21.5kg,ピンチ力:指腹つまみ2.0/2.2kg,側腹つまみ3.5/3.2kg,Numerical Rating Scale(NRS):6点(上肢活動時創部周辺)であった.以上より問題点は,手指巧緻性と上肢耐久性の低下が復職と鍛冶芸術の阻害因子であると考えた.そのため,2つの希望に共通する課題は道具操作であると考え,道具使用による退院後を想定した意味のある作業の実施により,早期復職と鍛冶芸術への参加に繋がると仮説を立てた.
【介入】
上肢モビライゼーションや手指巧緻訓練,視覚遮断下での探索訓練等機能面への直接的介入と,退院後の復職と鍛冶芸術を想定した介入を実施.共通課題である道具操作において,使い慣れたノコギリやカンナを用いることにした.ノコギリは断続的な上肢使用と感覚入力を引き起こし,上肢機能向上を促進する(山本,2009)ことから,道具における知覚情報は機能改善にも有効と考えた.意味のある作業として,成功体験や安全性確認を目的に,廃材を用いた道具操作の確認を実施後,1つの作品を作る目的でテーブル作成へと移行した.作成場面では,介入の経過に伴い30分以上の連続した上肢活動が可能となり,作品完成後には「これなら仕事も大丈夫」と前向きな発言が聞かれた.
【結果】
29病日後に退院,31病日後に復職した.COPMは,退院1か月後に電話にて聴取し,早期復職に対して遂行度9/満足度7となった.今後は病前と同程度の仕事量に増やし,美術展覧会への出展も出来そうとの意欲的な発言が聞かれた.鍛冶芸術は,復職を優先し作品制作を行っていないため再評価は未実施.身体機能(右/左)は,STEF:96/97点,表在感覚:軽度鈍麻(左右差なし),握力:26.8/25.3kg,ピンチ力:指腹つまみ3.2/3.4kg,側腹つまみ5.0/5.2kg,NRS:2点と改善した.
【考察】
頸椎椎弓形成術後の上肢機能向上において知覚機能は重要であり(片山,2021),機能面への直接的介入に加え,道具を用いた課題指向型訓練の実施により,短期間の介入において上肢・手指機能の改善が得られたと考える.また,対象者にとって遂行の意味や目的が予期できる作業の遂行は自己効力感を高め,復職に繋がる(猿爪,2021)ことより,退院後を想定した症例にとって意味のある作業の導入が,早期復職や生きがいである鍛冶芸術への意欲向上に繋がった.
近年の回復期リハビリテーション病棟は,平均在院日数の短縮かつ,早期より退院後の生活を想定した介入が必要である (伊藤,2011).しかし,短期間介入における早期職場復帰(以下復職)を想定した作業療法の報告は少ない.今回,回復期入棟時より早期退院が想定された症例に対し,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を用いて対象者の希望から,共通課題を分析し,意味のある作業に焦点を当てた介入を実施した.結果,退院後早期の復職,余暇活動への意欲向上に繋がったため,以下に報告する.尚,発表に際し症例に署名での同意と倫理委員会の承認を得た(TRC:202307).
【対象】
頚髄症性脊髄症術後の60歳代男性,14病日後に復職支援を目的に回復期リハビリテーション病棟へ転棟.翌日より作業療法6単位施行.職業はデッキ等建築会社経営.COPMにて,退院後の生活において2つの希望が聞かれた.1つは早期復職における道具操作獲得(重要度10/遂行度1/満足度1)と,もう1つは鉄板を加工して制作する鍛冶芸術の美術展覧会への出展(重要度8/遂行度1/満足度1)であった.しかし,「来年の出展は出来ない」と悲観的発言があった.身体機能(右/左)は,Simple for Test Evaluating Hand Function(STEF):83/91点(減点項目;巧緻性全般),表在感覚:中等度鈍麻(左右差なし),握力:22.6/21.5kg,ピンチ力:指腹つまみ2.0/2.2kg,側腹つまみ3.5/3.2kg,Numerical Rating Scale(NRS):6点(上肢活動時創部周辺)であった.以上より問題点は,手指巧緻性と上肢耐久性の低下が復職と鍛冶芸術の阻害因子であると考えた.そのため,2つの希望に共通する課題は道具操作であると考え,道具使用による退院後を想定した意味のある作業の実施により,早期復職と鍛冶芸術への参加に繋がると仮説を立てた.
【介入】
上肢モビライゼーションや手指巧緻訓練,視覚遮断下での探索訓練等機能面への直接的介入と,退院後の復職と鍛冶芸術を想定した介入を実施.共通課題である道具操作において,使い慣れたノコギリやカンナを用いることにした.ノコギリは断続的な上肢使用と感覚入力を引き起こし,上肢機能向上を促進する(山本,2009)ことから,道具における知覚情報は機能改善にも有効と考えた.意味のある作業として,成功体験や安全性確認を目的に,廃材を用いた道具操作の確認を実施後,1つの作品を作る目的でテーブル作成へと移行した.作成場面では,介入の経過に伴い30分以上の連続した上肢活動が可能となり,作品完成後には「これなら仕事も大丈夫」と前向きな発言が聞かれた.
【結果】
29病日後に退院,31病日後に復職した.COPMは,退院1か月後に電話にて聴取し,早期復職に対して遂行度9/満足度7となった.今後は病前と同程度の仕事量に増やし,美術展覧会への出展も出来そうとの意欲的な発言が聞かれた.鍛冶芸術は,復職を優先し作品制作を行っていないため再評価は未実施.身体機能(右/左)は,STEF:96/97点,表在感覚:軽度鈍麻(左右差なし),握力:26.8/25.3kg,ピンチ力:指腹つまみ3.2/3.4kg,側腹つまみ5.0/5.2kg,NRS:2点と改善した.
【考察】
頸椎椎弓形成術後の上肢機能向上において知覚機能は重要であり(片山,2021),機能面への直接的介入に加え,道具を用いた課題指向型訓練の実施により,短期間の介入において上肢・手指機能の改善が得られたと考える.また,対象者にとって遂行の意味や目的が予期できる作業の遂行は自己効力感を高め,復職に繋がる(猿爪,2021)ことより,退院後を想定した症例にとって意味のある作業の導入が,早期復職や生きがいである鍛冶芸術への意欲向上に繋がった.