[PD-5-9] 長母趾伸筋腱と短母趾伸筋腱の断裂に対する装具作製の試み
【はじめに】趾伸筋腱断裂の治療は,手指伸筋腱断裂を参考にした報告が散見されるが,稀な疾患であるために系統立った手法は確立していない(赤羽2004,Smith2008).また,治療に際し患部を保護するために外固定を要すが,医師により作製されたギプスかシーネを使用するのが主流で装具療法に言及した報告も僅かである(Skoff1988).今回,長母趾伸筋腱と短母趾伸筋腱の断裂に対し,低温熱可塑性樹脂を用いて外固定装具を作製する機会を得たため以下に報告する.
【症例紹介】発表に際し同意を得た30歳代男性.左第1中足趾節関節(以下,MTP関節)の近位に包丁を落とし,長母趾伸筋腱断裂と短母趾伸筋腱断裂を受傷した.手術は,4Strandにて両腱とも端端縫合を実施.後療法は,4週間の外固定を行い,外固定除去後は,手指伸筋腱断裂のプロトコルを参考に理学療法士により運動療法が行われた.免荷期間は4週だった.外固定装具は作業療法士(以下,OT)が作製し,固定期間中の装具の適合判定や生活指導を行った.
【装具の形状】厚さ32㎜の低温熱可塑性樹脂を用いて,シューホーン型短下肢装具を作製した.各関節の固定角度は,足関節背屈10°,MTP関節背屈20°左第1趾節間関節(以下,IP関節)伸展0°に設定した.成形は,装具装着時の不快感や固定の不安定さが生じないよう全面接触するように実施した.トリミングは,関節固定を安定させるために,後方撓み支柱の幅を広くし足関節周辺の撓みがリジッドになるように行い,母趾も周径の半分以上を覆うように実施した.
【経過】装具により固定肢位を保つことができた.また,使用中の破損は認めなかった.
関節可動域検査(自動/他動)は,手術後30日で,足関節は背屈15°/15°底屈40°/40°,MTP関節は伸展30°/30°屈曲30°/30°,IP関節は,伸展0°/0°屈曲30°/30°.手術後65日で,足関節は背屈20°/20°底屈40°/40°,MTP関節は伸展50°/60°屈曲40°/50°,IP関節は,伸展0°/0°屈曲40°/40°だった.母趾の計測は,対象となる関節以外は中間位にて実施した.
MTP関節伸展位でのIP関節の自動伸展は−10°.わずかに腱癒着が残存したが,歩行や活動に影響は認めなかった.
【考察】低温熱可塑性樹脂にて作製された装具は,ポリプロピレンなどを用いた装具に比べ強度が低く下肢に適用されることは少ない.しかし,今回の装具は関節固定が目的だったため,トリミングラインの工夫のみで強度不足が解消し良好な肢位を保つことができた.関節の固定角度に関しては,足関節背屈0°,母趾伸展0°で実施した報告(赤羽2004)や足関節背屈0°,母趾軽度伸展位にて固定した報告(Bronner2008,森2013)などあるが一定していない.今回は,手指伸筋腱断裂に使用する装具を参考にして関節の角度設定を行い,足関節は筋収縮で縫合部に過負荷がかからないよう背屈10°に,かつ,母趾MTP関節は,縫合部を近位に滑走させ留めておくために伸展20°とした.以上の工夫が再断裂の予防につながり,拘縮や腱癒着の軽減にも寄与したのではないかと考える.しかし,本装具の形状は,運動学や病態力学の側面を考慮した十分な検討がなされていない.低温熱可塑性樹脂は,OTが扱うことの多い素材で,装具作製の際は人体の形状によく適合するといった特性があり,関節を任意の角度に固定することが可能である.今後は,適した固定角度を明らかにして低温熱可塑性樹脂の特性を活かせば,趾伸筋腱断裂に対してもOTがより良い装具療法を提供できるのではないかと考える.
【症例紹介】発表に際し同意を得た30歳代男性.左第1中足趾節関節(以下,MTP関節)の近位に包丁を落とし,長母趾伸筋腱断裂と短母趾伸筋腱断裂を受傷した.手術は,4Strandにて両腱とも端端縫合を実施.後療法は,4週間の外固定を行い,外固定除去後は,手指伸筋腱断裂のプロトコルを参考に理学療法士により運動療法が行われた.免荷期間は4週だった.外固定装具は作業療法士(以下,OT)が作製し,固定期間中の装具の適合判定や生活指導を行った.
【装具の形状】厚さ32㎜の低温熱可塑性樹脂を用いて,シューホーン型短下肢装具を作製した.各関節の固定角度は,足関節背屈10°,MTP関節背屈20°左第1趾節間関節(以下,IP関節)伸展0°に設定した.成形は,装具装着時の不快感や固定の不安定さが生じないよう全面接触するように実施した.トリミングは,関節固定を安定させるために,後方撓み支柱の幅を広くし足関節周辺の撓みがリジッドになるように行い,母趾も周径の半分以上を覆うように実施した.
【経過】装具により固定肢位を保つことができた.また,使用中の破損は認めなかった.
関節可動域検査(自動/他動)は,手術後30日で,足関節は背屈15°/15°底屈40°/40°,MTP関節は伸展30°/30°屈曲30°/30°,IP関節は,伸展0°/0°屈曲30°/30°.手術後65日で,足関節は背屈20°/20°底屈40°/40°,MTP関節は伸展50°/60°屈曲40°/50°,IP関節は,伸展0°/0°屈曲40°/40°だった.母趾の計測は,対象となる関節以外は中間位にて実施した.
MTP関節伸展位でのIP関節の自動伸展は−10°.わずかに腱癒着が残存したが,歩行や活動に影響は認めなかった.
【考察】低温熱可塑性樹脂にて作製された装具は,ポリプロピレンなどを用いた装具に比べ強度が低く下肢に適用されることは少ない.しかし,今回の装具は関節固定が目的だったため,トリミングラインの工夫のみで強度不足が解消し良好な肢位を保つことができた.関節の固定角度に関しては,足関節背屈0°,母趾伸展0°で実施した報告(赤羽2004)や足関節背屈0°,母趾軽度伸展位にて固定した報告(Bronner2008,森2013)などあるが一定していない.今回は,手指伸筋腱断裂に使用する装具を参考にして関節の角度設定を行い,足関節は筋収縮で縫合部に過負荷がかからないよう背屈10°に,かつ,母趾MTP関節は,縫合部を近位に滑走させ留めておくために伸展20°とした.以上の工夫が再断裂の予防につながり,拘縮や腱癒着の軽減にも寄与したのではないかと考える.しかし,本装具の形状は,運動学や病態力学の側面を考慮した十分な検討がなされていない.低温熱可塑性樹脂は,OTが扱うことの多い素材で,装具作製の際は人体の形状によく適合するといった特性があり,関節を任意の角度に固定することが可能である.今後は,適した固定角度を明らかにして低温熱可塑性樹脂の特性を活かせば,趾伸筋腱断裂に対してもOTがより良い装具療法を提供できるのではないかと考える.