第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-6] ポスター:運動器疾患 6

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-6-7] 肘頭骨折術後,痛みに対する認知・情動面への介入がuseful handに繋がった経験

菱沼 孝文 (兵庫県立淡路医療センター リハビリテーション部)

【はじめに】痛みに対する介入は感覚面だけでなく認知・情動面からの介入が重要とされる.今回,左肘頭骨折術後,左上肢の痛みや不安が強く,運動機会の減少を認めた患者に対し,患者教育や目標共有,モニタリングを行った.その結果,痛みや不安が軽減し,合意目標の得点が向上されuseful handとなり,職場復帰に至ったため報告する.症例から発表の同意を得ている.
【症例紹介】40歳代女性であり,夫・母と3人暮らし,職業は食品製造である.術前19日,仕事中に転倒し左肘頭骨折を受傷する.plate固定術を施行され,術後23日,外来OTを開始した.
【OT評価(術後4週)】表情は暗く,左上肢は接触だけで過緊張が認められた.左肘関節ROM:屈曲70°/伸展-45°,感覚機能は正常だが肘関節の運動を求めても肩・手関節の運動となった.Numerical Rating Scale(NRS):安静時6/運動時8,握力:1kg,STEF:19点,QuickDASH :機能障害 症状65.9点,Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS):不安12/抑うつ8,Pain Catastrophizing Scale(PCS):反芻15/無力感9/拡大視8であった.BIは100点だが,左手の参加は乏しく,受傷後は休職しており,外出は少なくなっていた.地域環境として車運転の重要度が高く,合意目標は「マニュアル車を運転し自宅〜職場の通勤(30分)ができる」とし,実行度・満足度:1/10であった.
【方針】痛みについて,破局的思考から不安・不活動へと恐怖-回避モデルの悪循環に陥っていると考え,思考・感情を修正しuseful handへ至るよう認知・心理面への介入を図る.
【経過】外来OT:20〜40分,2〜3回/週を実施した.安静度に合わせてROMex・筋力ex・超音波療法を施行した.「どこが痛いかわかりません」「どう動かしていいかわかりません」と左上肢に対峙できておらず,術後protocol・解剖学・痛みの多面性についての知識を教示した.さらにMTDLPの生活行為アセスメント演習シートでの情報提供を行い,Shared Decision Makingにて合意目標を設定した.運動の認識不良に対して動画での動作の振り返りとSTEFなど数値の変化を提示し可視化を図った.また生活上の左上肢について紙面を用いてモニタリングし,痛みと動作への解釈ができるよう介入した.その中で,マニュアル車のシフトレバー延長を症例が提案され,適応できる方法を検討した.術後10週,マニュアル車の運転が可能となり,術後12週,職場復帰した.職場での交流や映画鑑賞を楽しむなど外出が増え,社会的な活動が増加した.
【結果(術後14週)】左肘関節ROM:屈曲90°/伸展-25°,NRS:安静時0/運動時3,握力:11.3kg,STEF:92点,Quick DASH: 機能障害 症状15.9点/仕事37.5点,HADS:不安6/抑うつ2,PCS:反芻11/無力感6/拡大視3,合意目標の実行度・満足度:8/10に改善した.左上肢や痛みについて具体的で前向きな発言が増加した.
【考察】患者教育・目標共有・モニタリングを行った結果,不安と破局的思考が軽減され,ROM制限は残存しているもuseful handとなり社会的な活動が可能となった.痛みの正しい理解が恐怖心などのネガテイブな感情を自己制御でき,下降性疼痛抑制系の機能が改善して,痛みおよび運動機能が改善する(大住倫弘 2018)とあり,また主体性を伸ばすには,情報提供と自己決定の促し,セルフモニターを実施し,内的統制を高めることが重要である(高橋香代子 2017)と述べている.教育的介入と主体的な心理への取り組みによる下降性疼痛抑制系の正常化と思考・感情の柔軟化が痛みへの恐怖感を軽減させ,useful handを獲得できたと推測する.認知・情動面への介入が痛みに対峙し恐怖-回避モデルから脱却する一助となり,QOL向上へ繋がったと考える.