第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-6] ポスター:運動器疾患 6

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-6-9] フォーカルジストニアに対する作業療法の経験

工藤 啓介1, 米山 智晃1, 皆川 有菜1, 村上 忠洋1, 増田 高将2 (1.社会医療法人宏潤会大同病院 リハビリテーション科, 2.社会医療法人宏潤会大同病院 整形外科)

【はじめに】
 フォーカルジストニアは,特定の動作でのみ生じる運動障害で,動作に関連した部位に局所的にジストニアを認めるものである.意図した動作と実際に生じる動作が異なるため,運動とその結果生じる感覚フィードバックの不一致が生じており,悪い運動学習が生じると考えられている.今回,我々はフォーカルジストニアと考えられた症例に対して,スプリント療法で不随的な筋緊張を抑制し,それに加え随意運動介助型電気刺激装置(Integrated Volitional Controlled Electrical Stimuration:以下,IVES)を用いた電気刺激療法で正しい運動学習を促し,良好な結果が得られたので報告する.
【症例紹介】
 症例は,40歳代の女性で診断名は左手のcomplex regional pain syndrome疑いであった.自宅で鍋等が入った重い箱が左手に落下し,その後から指の動きがおかしく異常感覚が出現したため他院を受診した.経過観察するが指の動きに改善がないため,当院紹介受診となった.尚,発表に際し本人には口頭で同意を得た.
【OT評価】
 受傷後5週より作業療法(OT)を開始した.腫脹や熱感の所見はなかった.左尺側の骨間筋,虫様筋の筋緊張が高く,IP関節屈曲位でMP関節を過伸展すると伸張時痛を認めた.痺れは左手に認めるが,末梢神経領域の局在とは一致しなかった.左指の他動関節可動域は正常であったが,指の屈曲を意識すると母指と示指は屈曲するが,中指と環指,小指の屈曲は不十分で,左尺側の骨間筋,虫様筋の筋緊張が高くなってしまい,屈曲運動に抵抗している様子であった.しかしながら,日常生活で意識をしなければ,指の屈曲は比較的可能であった.以上より,意識した自動屈曲時に左尺側指の運動障害を生じることからフォーカルジストニアを疑いOTを実施した.
【OT介入と経過】
OT1回目,指自動屈曲時に出現する中指と環指,小指の過剰な伸展に対してはスプリント療法を実施した.MP関節を示指も含めて屈曲位で終日装着とし,スプリント装着下でIP関節の自動屈伸運動を行い,骨間筋の筋収縮と弛緩を促した.また,正しい指屈曲運動を図る目的でIVES(パワーアシストモード)による電気刺激を実施するが,指屈筋群の収縮は困難であった.3回目 (3週と1日後)には,IVESで全体の半分程度の運動がみられるようになった.7回目 (8週後)には,示指から小指の同時屈曲が可能となり,スプリントは終了とした.12回目 (14週と1日後)には,握力は右が35kg,左が24kg,簡易上肢機能検査は,左右ともに100点,Hand20は2.5点であり,左上肢の使用による疲労感は出現しやすいが,日常生活上の使いにくさは解消された.
【考察】
 フォーカルジストニアに対して,硬性装具を用いた装具療法の効果が報告されており(Candia Victorら,2002),スプリントにて不随意的な筋緊張が抑制されると考えられている.IVESは筋から導出される筋電量に比例した電気刺激が可能な低周波治療器である(村岡慶裕,2017).すなわち,IVESの電気刺激による運動は,患者の意図した運動に近いため,運動と運動の結果として生じる感覚フィードバックが一致し,正しい運動学習を形成できると考えた.本症例では,スプリントによる筋緊張の抑制に加え,IVESを用いることで正しい感覚フィードバックによる運動学習が生じ,良好な結果が得られたと考える.