第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-7] ポスター:運動器疾患 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-7-1] 棘下筋回転移行術の後療法において電気刺激を用いた一例

鈴木 江美, 広瀬 富二, 平良 明子, 植村 剛, 福田 亜紀 (社会医療法人 峰和会 鈴鹿回生病院)

【はじめに】棘下筋回転移行術の後療法に関する報告は少なく,後療法を行う中で訓練方法に苦慮する場面がある.今回,術後3ヶ月で自動挙上70°他動挙上110°自動外転65°他動外転100°と自動可動域の不足を認め,徒手療法や自動運動のみでは筋機能の再獲得が難しいと感じ,筋機能訓練方法に難渋した.そこで電気刺激による筋萎縮・筋機能の改善が有用でないかと考えた.今回,移行した棘下筋の筋機能の再獲得を目的に電気刺激を用いた治療を施行したため,報告する.
【対象・経過】対象は2022年3月に右肩腱板広範囲断裂による棘下筋回転移行術を施行した50代,男性.術後固定は外転装具を8週間装着し,その後2週間三角巾を装着した.後療法は術後1週後から他動可動域訓練を開始し,術後10週後から自動運動を開始した.術後12週のMRIで修復腱板に再断裂がないことを確認後,術後17週から低周波による電気刺激を導入した.低周波はIVESを用いて,設定はノーマルモードとした.棘下筋に電極を貼付し,強度は筋収縮が確認できる程度で5分間実施し,週2回の外来リハビリ時に実施した.肢位は左側臥位で右上肢をセラピストが保持し,肩甲骨面挙上位で除重力位とした.施行中や施行後に挙上や外転運動を実施した.発表をするにあたり,対象者には口頭にて同意を得た.
【結果】低周波導入前の術後3ヶ月では,挙上70°MMT2・外転65°MMT2・外旋15°MMT3・内旋L5 MMT4で,挙上位保持が出来なかった.導入後1ヶ月で挙上135°へと改善を認め,挙上位保持が可能になった.術後6ヶ月では挙上150°MMT4・外転90°MMT3・外旋35°MMT4・内旋L1 MMT4と改善を認めた.JOAは術後3ヶ月63.5点から,術後6ヶ月77点へと改善を認めた.
【考察】安里は,棘下筋回転移行術は棘上筋の機能再建であり,再建された腱板機能は棘上筋の腱延長効果と回転移行した棘下筋の効果によるとしている.そのため後療法で棘下筋の筋機能再獲得が重要と捉え,自動運動開始後から棘下筋の収縮が入りやすい方法を模索した.しかし棘下筋回転移行術は棘下筋を起始部から剥離するため,早期からの積極的な運動療法が行いにくく,棘下筋の筋機能改善に時間を要するとされている.術後3ヶ月後も移行した棘下筋が十分に機能せず,挙上位保持も出来なかった.そこで低周波を導入し,導入後1ヶ月で自動可動域の拡大を認め,術後6ヶ月で屈曲150°外転90°と改善した.これは棘下筋の筋機能が改善したことにより,棘上筋の作用である支点形成力が発揮できるようになり,自動挙上・外転が拡大したと考える.棘下筋は手術によって走行が変わるため,外旋作用から棘上筋作用の支点形成力の発揮と挙上・外転作用へと筋機能の変換が必要となる.これは手指の腱移行術と同様と考えられ,移行筋の筋収縮不全がある場合は低周波を用い,筋機能の改善を図ることがある.これと同様の効果が,棘下筋に応用できた可能性があると考えられた.
 神経筋電気刺激は電極を介して他動的に筋収縮を誘発するものであり,筋萎縮の改善・筋力増強を目的としている.加えて,積極的な運動療法が実施できない場合に筋力低下に対する運動の補助療法として有効とされ,随意運動と組み合わせることでより効果的と言われている.このことから今回は随意運動と組み合わせたことで筋力低下改善・筋機能の変換に作用し,棘下筋の筋機能再獲得に有効に働いた可能性があると考えられた.