第58回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-7] ポスター:運動器疾患 7

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PD-7-3] 慢性疼痛患者に対する認知行動療法の適用

従来型CBTとACTの比較から

齊藤 太地, 吉田 純平, 亀久保 江士, 松下 太一, 小出 弘寿 (北斗わかば病院 リハビリテーション部)

【はじめに】現在,慢性疼痛治療ガイドラインにおいて従来型認知行動療法(以下:従来型CBT)と第三世代型認知行動療法のアクセプタンス&コミットメントセラピー(以下:ACT)を行う事は強く推奨されており,慢性疼痛治療において心理的アプローチは重要視されている.今回,骨折後の慢性疼痛による抑うつ,痛みからの回避行動が問題となった症例に対して従来型CBT及びACTを行った.今回の経過から従来型CBTとACTを比較し,慢性疼痛患者への認知行動療法の適用について考察していく.
【倫理的配慮】本人に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】80代,女性.自宅で転倒し大腿骨転子部骨折,右踵骨折を受傷.股関節は手術を行なったが,右踵骨折は装具固定.保存療法にて十分な運動が行えず,術後痛が3ヶ月以上続いた.
【作業療法評価】NRS(1日の中の最大の痛み):3-8/10 GDS:11/15(うつ状態) PCS:22/52(破局的思考:反芻)FIM:92/126 MMSE:29/30 FAB:14/18(減点:概念化,知的柔軟性,GO-NO-GO)移動:車椅子自走 行動観察:長期臥床傾向.訓練拒否あり.
【経過】従来型CBT実施期
痛みの慢性化や抑うつの要因として,感情的理由付け等の認知の偏りや回避行動により痛みの悪循環が生じていると考えた.その為,適応的な思考の獲得や行動変容による痛みの悪循環の改善を目的に従来型CBTを3w実施.行動活性化では「宿題みたいで嫌だ」等の発言あり,回避行動が続き,行動変容に至らなかった.認知再構成法では自分の考えに固執し,適応的な思考が受容できず,認知の変容が困難であった.本人から「理屈ではわかるけど受け入れられない」と発言もあった.
【中間評価】GDS,PCS,NRS:変化なし AAQ−Ⅱ:34/49 CPAQ:56/130
【経過】ACT実施期
体験の回避の程度を評価するAAQ–Ⅱと痛みのアクセプタンスを評価するCPAQ,を追加.そこから痛みの許容度が低いことで回避行動が強化されていると考え,痛みの許容度の改善,回避行動の減少を目的にACTを4w実施.今までの回避行動が逆効果である事を体験し,痛みを受容する方法,痛みに関する思考から距離を置く方法を共有した.そして,本人の「健康でいたい」という価値に沿う行動を促した.結果,「今の体を認めた」等の発言もあり,痛みをある程度受け入れ,行動変容が見られた.
【結果】(変化点を記載)
NRS:2-3/10 GDS:6/15(うつ傾向) PCS:12/52 AAQ−Ⅱ:24/49 CPAQ:66/130 FIM:100/126 移動:歩行器歩行自立 行動観察:離床時間の延長.訓練拒否の減少.
【考察】今回,慢性疼痛患者に対し,まず従来型CBTを実施した.しかし,認知及び行動の変容が困難で効果は得られなかった. 先行研究において思考の柔軟性は加齢により低下することが示唆されており,本症例においても思考の柔軟性に乏しく固執性が強い傾向にあった.そのことが従来型CBTの効果が得られなかった要因であると考える.その後,ACTを実施.結果,痛みのアクセプタンス,体験の回避,破局的思考,抑うつ,痛みの程度が改善された.ACTでは認知の変容を方略とせずあるがままの思考や感情から距離を置き,受け止めるという方略をとる.固執性が強い場合でもACTは認知の変容を必要としない為,ACTが有効であったと考える.経過から,高齢のために思考の柔軟性に乏しく固執性が強い対象者には従来型CBTは適用しにくい場合があり,その際にはACTが適用できる可能性があると考えられた.