第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-9] ポスター:運動器疾患 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PD-9-1] 利き手受傷か否かで橈骨遠位端骨折術後の機能的経過は異なるか?

藤村 裕介1, 岡本 麻璃恵2, 谷田 玲3 (1.浜脇整形外科リハビリセンター リハビリテーション科, 2.浜脇整形外科病院 リハビリテーション科, 3.浜脇整形外科病院 整形外科)

【はじめに】橈骨遠位端骨折術後におけるリハビリテーションは,関節可動域,筋力,患者立脚型評価をアウトカムとして3か月程度で終了となる事が多いとされ,それまでに一定の機能回復が望めるようプログラムを組む必要がある.一方で,ただ漫然と機能訓練を行うのみでは作業療法としては不十分であり,患者の個人・環境因子を含めた多面的視点からの支援が必要である.その中で,一般的に利き手と非利き手では役割および使用頻度が異なるが,それぞれ受傷後どのような機能的推移をたどるのかについての報告は少ない.本研究の目的は,術後3か月までの各アウトカムの推移を,利き手受傷か否かの視点を加えて検討し,後療法への一助とすることとした.
【対象・方法】対象は2014年5月から2023年12月の間に当院にて橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート施行例とした.その中で調査時期を術後1,2,3か月とし,調査が2期以上欠損した例,多部位受傷および機能経過に影響を及ぼす可能性のある既往を持つ例を除外した117例117手を最終選定した.このうち,利き手受傷58例(平均年齢60.98±14.36歳,男性16例女性42例)をD群,非利き手受傷59例(平均年齢61.31±13.01歳,男性16例女性43例)をN群とした.調査項目は骨折型(AO分類),手関節可動域(掌背屈,回内外),筋力(握力,Key pinch力)および質問紙法としてHand20(100点換算の総スコアおよび各質問項目スコア)とした.統計解析では,まず両群の年齢,性別,骨折型の偏りを確認した.次に各調査項目に対し,線形混合モデルによる分割プロットANOVAを用いて,群間および時期による差を確認した.統計解析にはR4.2.3(CRAN,freeware)を用いて,有意水準は5%とした.
【倫理的配慮】本研究における対象者には口頭,書面にて説明し同意を得た.また,筆頭演者所属施設倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号202401-18).
【結果】両群の年齢,性別,骨折型に偏りは認めなかった.全ての項目において群間の差は認めず,時期の要素において有意に改善した.交互作用はHand20質問項目,問14「わるい方の手で新聞のページをめくる」で認めた(p=0.02).問14の得点推移は術後1か月D群2.29±0.27/N群3.26±0.27点,2か月1.01±0.27/1.32±0.27点,3か月0.62±0.27/0.50±0.27であり,D群は1-2か月(p<0.001),1-3か月(p<0.001)のみ,N群は1-2か月(p<0.001),1-3か月(p<0.001)に加えて2-3か月(p=0.007)でも経時的に有意な改善を認めた.
【考察】受傷側別の治療成績は,可動域,握力,活動困難感などの経過に差があるとの報告が散見される.本研究においては全ての項目で群間の差がみられず,可動域,筋力において交互作用も認めなかった.一見,機能経過に差はなく受傷側が利き手か否かは後療法において重要ではないようにもみえる.しかしHand20問14は交互作用がみられ,術後3か月で両群とも同等の成績になるものの,N群はD群と比較し改善が緩やかであることが示唆された.問14は患側手を指定使用する項目の中でも負荷は低く,本来であれば術後早期であっても控えるべき動作ではない.3か月程度経過すると両群ともに機能回復がみられることから目立たないが,非利き手受傷では患側手の使用を控える症例を経験することは多く,不要な安静は機能障害を引き起こすリスクもある.非利き手受傷の場合,術後早期において負荷の低い作業に対する患側手の使用を励行する指導が必要であると考える.
【結論】橈骨遠位端骨折術後において,非利き手受傷は利き手受傷と比較し,術後早期において低負荷作業の改善が緩やかである可能性が示唆された.