第58回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-6] ポスター:神経難病 6

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PE-6-2] 積極的なリハビリテーション治療により,起立性低血圧が改善しADLが向上した多系統萎縮の症例

池田 礼奈1, 簗瀬 太樹2, 櫻井 雄太2, 吉岡 和泉2, 坂野 元彦1 (1.那智勝浦町立温泉病院, 2.発寒リハビリテーション病院)

【はじめに】多系統萎縮症の患者は自律神経障害による起立性低血圧を伴うことが多い.今回,起立性低血圧により寝たきりとなった多系統萎縮症患者に対し,積極的な離床や運動療法を行い,ADLが改善したため報告する.
【症例紹介】72歳女性.101歳の母と実姉の3人暮らし.2018年よりすくみ足が出現し,薬物治療(L-dopa,dopamine-agonist)を投与された.2020年3月に起立性低血圧を認め,トイレ以外は起き上がれなくなり,寝たきりの状態となった.同年6月に多系統萎縮症(MSA-P)と診断され,リハビリテーション治療を目的に当院へ入院となった.発表に際し,本人に趣旨を説明して口頭で同意を得た.
【入院時現症】無動や固縮,姿勢反射障害,起立性低血圧を認めた.改訂長谷川式簡易知能評価スケールは28点,MMT(R/L)は上腕二頭筋4/4,大腿四頭筋3+/3であった.症状の日内変動,日差変動があった.起居は全介助,起立は中等度介助を要し,車椅子駆動は全介助であった.車椅子座位は可能であったが,起立性低血圧による失神を頻回に認めた.食事はベッド上で一部介助(お皿の移動),整容動作は一部介助から全介助,更衣動作は全介助,トイレ動作は全介助であった.尿閉と便秘症のため看護師による定時導尿や服薬調整が行われた.Functional Independence Measure(FIM)は57点(運動項目23点,認知項目34点)であった.
【リハビリテーション治療】ADLを阻害している起立性低血圧は多系統萎縮症による自律神経障害と長期臥床による廃用が原因と考えた.そこで,静脈還流量を増やすため入院時から腹帯や弾性包帯を用いて離床時間を可能な限り長くした.また,急激な姿勢変化がなく,低負荷で長時間続けることができ,腹圧の上昇や下肢の筋ポンプ作用を期待できそうなワイピングや上肢エルゴメーター,椅子座位での下肢エルゴメーター,車椅子駆動などから実施した.目眩などの前失神症状が見られた時には介助下でのスクワット運動を実施して筋ポンプ作用を促した.
徐々に起立性低血圧による失神を認めなくなり,腹帯や弾性包帯を除去した状態で高負荷の運動療法を実施できるようになった.その後,前失神症状の回数が少なくなり,身体機能の改善に応じて,日常生活でのリハビリテーション治療も実施した.リハビリテーション治療以外の病棟で過ごす時間にも離床させて,院内での生活範囲の拡大を図った.
【退院時現症】MMTは上腕二頭筋4/3+,大腿四頭筋4/4と改善し,起居・起立・移乗が監視で可能となった.車椅子駆動が自立でき,病棟での活動範囲が拡大した.食事は端座位で自立,トイレ動作が監視,整容・更衣動作が軽介助で可能となった.FIMは84点(運動項目50点,認知項目34点)に改善した.起立性低血圧による失神を認めなくなったことにより,テレビを見ながらゆっくり食事をしたり,スタッフと院内の売店に出かけたりするなど院内での活動範囲を拡大することができた.入院182日後に自宅へ退院となった.
【考察】多系統萎縮症のような進行性疾患で起立性低血圧のため,運動はおろか,日常生活を送ることができなくなった状態でも,症状に応じて能力に応じたリハビリテーション治療を積極的に行うことで,筋力の改善だけでなく,起立性低血圧による失神を認めなくなった.失神を認めなくなったことで,訓練を長時間実施できるようになり,本人だけでなく介護者の不安を軽減することにつながり,院内での生活範囲が拡大して,自宅での生活へつなげることができたと考える.