第58回日本作業療法学会

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ポスター

神経難病

[PE-6] ポスター:神経難病 6

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PE-6-3] 早期より好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対して装具療法を用いたアプローチ

小崎 瑞穂, 和田 勇治, 宗村 麻紀子, 岡崎 舞子 (日本医科大学千葉北総病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以下EGPA)とは多彩な症状を呈する好酸球増加に伴う全身性の壊死性血管炎である.多発性単神経炎が生じた場合,末梢神経障害が残存する事が多いと報告されている.本邦では年間新規患者数が約100例と稀な疾患であり,EGPA患者の歩行障害に対する装具療法報告は散見されるが,上肢末梢神経障害に対する装具療法報告はほとんど見られない.今回,左上肢の末梢神経障害を呈した急性期のEGPA患者に対して,早期より機能訓練に加え装具を作成したことでADL・QOLの改善を認めた症例を経験したので報告する.尚,今回の発表に関して本人から同意を得ている.
【症例紹介】
右利き60歳代女性.気管支喘息の既往歴がある.入院数週間前より左上肢の運動・感覚障害が出現した為,当院入院となり,EGPAと診断された.入院後3病日目からステロイドパルス療法を開始し,その後経口ステロイド療法・免疫抑制剤・免疫グロブリン療法を実施.血液データの炎症値の改善を認めたものの,多発単神経炎による左上肢の運動・感覚障害は残存した為,入院後8病日目から理学療法と作業療法を開始した.神経伝導検査では左正中神経が導出不可,左尺骨神経が振幅低下を認めた.
【初回評価 (8~9病日目)】
徒手筋力検査 (右/左)では,短母指外転筋4/1, 母指対立筋4/0,第2~5指MP関節屈曲5/1,第2~5指MP伸展5/4,第2~5指PIP・DIP関節屈曲5/1であり, 握力(右/左)は13.2㎏/測定不能であった.精密知覚機能検査は(左)正中神経が測定不能, (左)尺骨神経が防御知覚脱失, Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand(以下,DASH)の機能障害/症状スコアは49.25点であり,Hand20では95.5点であった. COPMでは「左手で支えながらペットボトルの開封をしたい」重要度10/10,遂行度1/10,満足度1/10.であった.FIMは94点であった.
【介入経過】
介入初期(介入~15病日目)では,関節可動域訓練・筋力増強訓練・上肢機能訓練を中心に実施した.しかし,数日の訓練で機能改善を認めず神経伝導検査にて重度障害が予測された事もあり,COPMでの希望に焦点をあて,短対立スプリントを作成する事となった.介入中期(16病日目~20病日目)では,16病日目にインフォームドコンセントが実施され,患者に対し末梢神経障害は残存する事の告知とスプリント作成を検討する事が伝えられた.その際,スプリントへの拒否感が認められたが,試行品のスプリントを装着し上肢機能訓練を実施したところ,物品把持が可能であると患者自身が実感する事が出来た.20病日目に短対立スプリントの作成に至った.介入後期(21病日目~53病日目)では,短対立スプリントにより母指対立位への誘導や母指・小指対立アーチの維持が可能になった事で,巧緻動作訓練・IADL訓練へと難易度を上げていく事が可能となった.他のADL・IADLが自立して遂行可能となり,59病日目に回復期リハビリテーション病院へ転院となった.
【最終評価 (57~58病日目)】
身体機能評価では,左上肢の筋力・感覚の改善は認められなかったが,DASH(機能障害/症状スコア)45.75点,Hand20では59点, COPMでは重要度10/10,遂行度7/10,満足度6/10と改善が見られ,ペットボトルの蓋の開封が可能になった.FIMは101点であった.
【考察】
EGPAに合併する多発性単神経炎に伴う神経障害は残存する事が多いと報告されている.その為,先行研究を参考に早期からスプリント作成を検討し介入した.その結果,DASHやHand20・COPMでの数値の改善が認められたようにADL内での患側の使用頻度の向上が得られ,患側の二次的な機能障害を予防したと考える.以上の事から早期からの装具療法を取り入れた作業療法は有効だったと考える.