第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-1] ポスター:がん 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-1-1] 緩和ケア病棟における作業に根ざした実践の報告

クライエントの「子ども達に何かしてあげたい!」という気持ちの実現

中村 悠斗, 有田 幸平, 河本 聡志, 横尾 春香 (一般財団法人 倉敷成人病センター 診療支援部 リハビリテーション科)

【はじめに】先行研究では,超高齢者への作業機能障害の種類と評価(以下CAOD)を用いた作業に根ざした実践(以下OBP)は対象者の大切な作業を実現し,本人と家族のニーズに沿った生きがいのある生活に繋げられると報告されている.しかし,緩和ケア病棟においてCAODを用いたOBPの報告は少ない.今回,作業機能障害(以下OD)を呈した終末期卵巣がん患者に対し,CAODを用いてOBPを行なった事例を経験した.その結果,最期まで作業的存在であり続けられた支援に繋がったため,報告する.本報告に際し家族に口頭で同意を得た後,当院倫理審査委員会で承認を得ている.
【事例紹介】長年,幼稚園の園長として[子ども達の成長に携わることが自身の役割]と認識されている50歳代の女性(以下A氏).そのようなA氏を夫は理解し,仕事に対する想いを尊重される家族と共に生活されていた.3年前に卵巣がんの診断を受け,化学療法と放射線治療を外来通院で受けていたが,食欲不振と倦怠感をきっかけに入院.がんの進行とそれに伴う体調不良が続くため緩和的治療を選択され,入院7日目に緩和ケア病棟へ転床.A氏より主治医に「入院している子ども達のために何かしてあげたい」と希望があり,入院14日目に緩和ケア病棟での作業療法(以下OT)が開始となった.
【OT評価】FIM121点,BI100点,CAODは62/112点,潜在ランクは4(中等度のOD),作業不均衡13/28,作業剥奪19/21,作業疎外17/21,作業周縁化13/42.作業剥奪と作業疎外の程度が強く「子ども達が楽しめる物を作りたいけど機会がない」「入院中に自分の好きなことなんてできないですよね」と聞かれた.カナダ作業遂行測定(以下COPM)は入院中の子ども達に向けた季節の制作活動が重要度10,遂行度1,満足度1.
【経過】介入前期(入院15日目~):病室で季節の制作が行えるよう,環境調整を実施.制作しているうちに「おばけの顔を色んな人に描いてもらうと面白そう」と聞かれ,看護師や理学療法士,当院通院中の子ども達にも協力してもらい作成した.子ども達が楽しそうに作っていたことを伝えると「おばけの顔を見るだけで楽しそうなのが伝わるわ」と嬉しそうに話されていた.その後は制作以外にも,旅行の計画や「園長の経験を活かして誰かの力になりたい」と前向きな発言が聞かれ,能動的に日々を楽しむ姿が見られるようになった.
介入後期(入院27日目~):作品を病棟に飾り,看護師・作業療法士・家族と一緒にお披露目会を実施.その様子を撮影し,翌日にA氏へ写真を渡すと「私の我儘に付き合ってくれてありがとう,本当に良い思い出になりました」と涙を流して喜ぶ姿が見られた.
【結果】CAODは17/112点で潜在ランクは1(健常群).作業不均衡5/28,作業剥奪3/21,作業疎外3/21,作業周縁化6/42.COPMは遂行度・満足度10となった.入院36日目に旅行へ行き,帰院後は「すごく楽しかった.友達とも会えて満足です」と嬉しそうに話されていた.しかしその後,全身状態が急激に悪化し,入院41日目に逝去された.後日,家族より「緩和ケアへの移行を提案された時は葛藤しましたが,最期までやりたいことができて幸せだったと思います」と聞かれた.
【考察】三木は終末期において患者を作業的存在として捉え,最期までよりよい作業的存在であり続けることができるよう支援することが,OTの独自性や専門性であると述べている.A氏の場合,子ども達の成長に携わるという役割が遂行できるよう環境調整を行なったことで,協働して子ども達に向けた季節の制作に取り組むことができた.その結果,作業剥奪や作業疎外が改善し,最期まで作業的存在であり続けられたのではないかと考える.