第58回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-2] ポスター:がん 2  

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-2-1] レジリエンスが低い血液がん患者2例における心理的ストレス反応の変化

小泉 浩平1,2, 大木原 徹也2, 伊藤 慎太郎2, 下斗米 佳奈実2 (1.埼玉県立大学 保健医療福祉学部 作業療法学科, 2.埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーションセンター)

【はじめに】がん患者の前向きな生活を支援するには,心理-行動-身体活動に配慮したリハビリテーションが求められる(Lindwall. 2011, Romero. 2017).ストレス対処の概念にある“レジリエンス”は,ストレス状況下で回復力と反発力を高めて自己の心身恒常性保持を図ることである.レジリエンスは心理と関連が強く,レジリエンスの向上は心理-行動のベースライン強化が期待される.レジリエンスを効果的に高める方法にはマインドフルネス・トレーニング(MT)がある.がん患者のレジリエンスを高める作用のある心理-行動に配慮した介入方略の開発が待たれている.
【目的】MTと運動療法の併用がレジリエンススコアを維持し,心理状態ならびに心臓自律神経機能のストレス応答が改善するという仮説を,血液がん患者2症例から検証した.SMUIMC倫理委員会承認済み(2022-001).開示すべきCOIはなし.
【症例1】急性骨髄性白血病.50歳代男性.主訴は倦怠感.入院後1か月で体力維持を目的に作業療法を開始した.
【症例2】慢性骨髄白血病の急性転化.40歳代女性, 主訴は全身倦怠感. 入院1週間後に体力低下予防目的で作業療法を開始した.
【方法】期間は4週間と設定し,MTと運動療法を併用した強化治療(症例1)と,運動療法単独の通常治療(症例2)を比較した.なお,開始時レジリエンススコアは日本人成人平均スコア以下の同等帯域で均質であることを確認した.MTは1週目に導入として,出来事の解釈と思考の整理手法を伝えた.2週目はリラクセーション手技として呼吸法と瞑想を実践し,3-4週目には呼吸法と瞑想の量を漸増,その間に負の感情によるストレス処理の理解と対策を助言した(Wang. 2022).運動療法は,1) ウォーミングアップ: 体操2分,2) 有酸素運動: 歩行10分,3) 筋力強化練習: ゴムバンド運動4分,4) クールダウン: 体操2分とした.全て週に3-5回の頻度で実施した.評価指標はレジリエンススコア,心理とストレス応答,身体活動量とし,初回,2週後,4週後に調査した.レジリエンススコアは,日本版コナー・デビッドソン回復力尺度(CD-RISC)で評価した.心理は日本語版Profile of Mood States 2nd Edition(POMS2)から緊張(不安),抑うつの指標を使用し,ストレス応答指標はTAS9VIEW(株式会社YKC)を用いた心拍変動周波数(交感神経活性: LF/HF,副交感神経活性: HF)を測定,身体活動量はライフコーダGS(スズケン社)を用いた.
【結果】症例1のCD-RISCは,初回57→4週後67,POMS2の緊張(不安)は初回5→4週後1,抑うつ7→0であった.自律神経機能は,LF/HF初回1.42→4週後0.87,HF4.47→4.33で,身体活動量は,初回1384歩→4週後3600歩であった.症例2のCD-RISCは,初回45→4週後50,POMS2の緊張(不安)は初回7→4週後2,抑うつ5→0であった.自律神経機能は,LF/HF初回1.88→4週後1.44,HF0.99→2.06で,身体活動量は,初回504歩→4週後1620歩であった.
【考察】当研究はMTと運動療法の併用効果について検証した結果,強化治療例のレジリエンススコアは成人平均帯域へ向上を認めた.心理スコアに差はなかったが,強化治療例のHF活性が正常帯域で推移した.MTによる瞑想や呼吸法は,否定的な感情や感覚を受容する心理的プロセスを経た結果,レジリエンスを高める(Ye ZJ. 2017).レジリエンスと心理状況は正相関し,心理は自律神経機制への作用機序を有する(Thayer. 2009).これらからMTによるレジリエンスの変化が,情動処理の生理学的リソースの制御に一部反映されたと考えられた.レジリエンススコアの違いにより階層化された心理および行動応答の検証は次の課題である.