[PH-1-1] 統合失調症者が「客観的臨床能力試験」に参加することによる自己効力感及び自尊感情の変化の検証
【はじめに】
近年,医療専門職を目指す養成校では客観的臨床能力試験(以下,OSCE)の導入が進んでおり,評価者や学生に焦点を当てた報告は増えている.また,障がい当事者(以下,当事者)参加型授業の導入も増えており,当事者と接する機会は学生にとっては実践的な体験となり,障がいの理解や学習度の向上に寄与するとされている(鈴木達也ら,2018).一方で,当事者がOSCEの被検者として参加し,その影響について検討した報告は見当たらない.そこで本研究では,OSCEが当事者の自己効力感や自尊感情に及ぼす影響について検証した.なお,倫理的配慮として本人に十分説明を行い書面にて同意を得た.
【対象・方法】
1)対象:30歳代,女性,統合失調症(以下,A氏)高校卒業後,県外の工場に勤務するもX年に不適応を起こして退職し,実家に帰省した.その後厨房の仕事に従事したが,X+15年内服中断で幻覚妄想状態となり精神科病院に初回入院となった.X+16年退院し,翌年就労継続支援B型事業所(以下,事業所)の利用を開始した.現在は事業所を週4日利用しながらアパートで独居生活を送っている.休日は,家事や家族と近隣で買い物などして過ごしている.OSCE実施前は,人前で話すことへの不安や緊張がある,精神障がい者に対する偏見が減ることに貢献したいと話す.
2)方法:実施期間2023年6~7月.事前に①A氏の意見を作業療法士(以下,OTR)が聴取し,それを基に②OTRと養成校教員で話し合い,当日の流れや環境を整備した.当日は③OTR同伴にて作業面接(事業所で作成している羊毛フェルトを使用)についてOSCEを実施した.A氏は学生に作品作りで工夫していることや自分にとっての仕事の意味,やり甲斐を語った.終了後に④A氏とOTRで振り返りを行った.OSCE実施前後にて,General Self-Efficacy Scale(以下,GSES),Rosenberg(1965)のself-esteem scaleの日本語版自尊感情尺度(山本真理子ら,1982)(以下,RSES)を評価した.GSESは全16項目で「行動の積極性」「失敗に対する不安」「能力の社会的位置づけ」の3つの下位尺度,RSESは全10項目から構成されている.
【結果】
GSESは総得点が4点→10点と上昇した.特に「失敗に対する不安」が1点→4点,「行動の積極性」は2点→4点,「能力の社会的位置づけ」が1点→2点と変化した.RSES は35点→42点に上昇した.振り返りでは,「自分の体験を伝えることで学生の役に立ったと感じた」,「私との関わりで精神障がい者も普通の人と変わらないと気づいてもらえたら嬉しい」,「今後も学生教育の依頼があればやってみたい」などの発言が聴かれた.実施後,事業所での新たな作業への挑戦や学生教育の役割を担うなど変化もみられた.
【考察】
今回の結果から当事者がOSCEに参加することで,自己効力感や自尊感情の向上に寄与する可能性が示唆された.A氏にとってOSCEは,自分の仕事に関わる体験や意義を自分の言葉で語り,学生からの受容と承認の場となった.それにより,学生教育に貢献したと実感できたことが成功体験となり,自己効力感や自尊感情の向上に寄与したのではないかと考えられる.また,自己効力感の向上が新しい社会的役割の獲得にも繋がった可能性も考えられる.今後,OSCEに当事者が参加することの影響の検証をさらに進めていく必要がある.
近年,医療専門職を目指す養成校では客観的臨床能力試験(以下,OSCE)の導入が進んでおり,評価者や学生に焦点を当てた報告は増えている.また,障がい当事者(以下,当事者)参加型授業の導入も増えており,当事者と接する機会は学生にとっては実践的な体験となり,障がいの理解や学習度の向上に寄与するとされている(鈴木達也ら,2018).一方で,当事者がOSCEの被検者として参加し,その影響について検討した報告は見当たらない.そこで本研究では,OSCEが当事者の自己効力感や自尊感情に及ぼす影響について検証した.なお,倫理的配慮として本人に十分説明を行い書面にて同意を得た.
【対象・方法】
1)対象:30歳代,女性,統合失調症(以下,A氏)高校卒業後,県外の工場に勤務するもX年に不適応を起こして退職し,実家に帰省した.その後厨房の仕事に従事したが,X+15年内服中断で幻覚妄想状態となり精神科病院に初回入院となった.X+16年退院し,翌年就労継続支援B型事業所(以下,事業所)の利用を開始した.現在は事業所を週4日利用しながらアパートで独居生活を送っている.休日は,家事や家族と近隣で買い物などして過ごしている.OSCE実施前は,人前で話すことへの不安や緊張がある,精神障がい者に対する偏見が減ることに貢献したいと話す.
2)方法:実施期間2023年6~7月.事前に①A氏の意見を作業療法士(以下,OTR)が聴取し,それを基に②OTRと養成校教員で話し合い,当日の流れや環境を整備した.当日は③OTR同伴にて作業面接(事業所で作成している羊毛フェルトを使用)についてOSCEを実施した.A氏は学生に作品作りで工夫していることや自分にとっての仕事の意味,やり甲斐を語った.終了後に④A氏とOTRで振り返りを行った.OSCE実施前後にて,General Self-Efficacy Scale(以下,GSES),Rosenberg(1965)のself-esteem scaleの日本語版自尊感情尺度(山本真理子ら,1982)(以下,RSES)を評価した.GSESは全16項目で「行動の積極性」「失敗に対する不安」「能力の社会的位置づけ」の3つの下位尺度,RSESは全10項目から構成されている.
【結果】
GSESは総得点が4点→10点と上昇した.特に「失敗に対する不安」が1点→4点,「行動の積極性」は2点→4点,「能力の社会的位置づけ」が1点→2点と変化した.RSES は35点→42点に上昇した.振り返りでは,「自分の体験を伝えることで学生の役に立ったと感じた」,「私との関わりで精神障がい者も普通の人と変わらないと気づいてもらえたら嬉しい」,「今後も学生教育の依頼があればやってみたい」などの発言が聴かれた.実施後,事業所での新たな作業への挑戦や学生教育の役割を担うなど変化もみられた.
【考察】
今回の結果から当事者がOSCEに参加することで,自己効力感や自尊感情の向上に寄与する可能性が示唆された.A氏にとってOSCEは,自分の仕事に関わる体験や意義を自分の言葉で語り,学生からの受容と承認の場となった.それにより,学生教育に貢献したと実感できたことが成功体験となり,自己効力感や自尊感情の向上に寄与したのではないかと考えられる.また,自己効力感の向上が新しい社会的役割の獲得にも繋がった可能性も考えられる.今後,OSCEに当事者が参加することの影響の検証をさらに進めていく必要がある.