[PH-1-4] 精神科入院患者に対する身体障害領域に従事するOTの介入効果
アルコール離脱せん妄を呈した2例の経過報告
【はじめに】
精神科入院患者に心身両面へのアプローチの必要性が求められて(河埜ら2014)久しい.当院では精神科入院患者に身体機能へのアプローチを目的に身体障害領域のOT(身障OT)の依頼が度々ある.今回アルコール(ALC)離脱せん妄を呈したALC依存症の2例を担当する機会を得た.そこで身障OTが精神科入院患者を担当する効果を実感したので報告する.本発表に際し書面口頭で説明し同意を得た.
【A氏紹介】50代男性,自宅で弟(精神障害)と二人暮らし,就労中.X年自宅付近で転倒し救急搬送,ALC離脱せん妄を認め当院精神科へ医療保護入院となる.
【経過】入院時は振戦,幻覚,妄想が強く放尿,離院行動,転倒を認め身体拘束となりコルサコフ症候群が疑われた.21病日に身障OT開始,初期評価では小脳性運動失調SARA12点,BBS14点,平行棒内介助歩行,MMSE15点,病識欠如,作話疑を認めBI10点だった.精神科OTでは約束事の不順守を認めた.立位歩行能力,ADL改善を目標に身体機能,ADL練習を進めた.希望は「早く退院して仕事に復帰する」だった.OT場面の変化を病棟で汎化できるよう精神科OT,看護師と情報共有した.30病日頃に「なぜ入院しているのかわからない,仕事や運転に問題はない」との言動があった.この時点では転倒リスクが高く,当院運転評価(机上)結果は「回復期病院でシミュレータ評価を推奨」だったため早期自宅退院ではなく回復期病院への転院を提案した.主治医,精神科OT,MHSW,看護師と情報共有を行い自宅復帰に向けた転院の方針となった.最終評価はSARA0点,TUG8.3秒,10m歩行試験(10MWT)6.7秒,BBS56点と立位歩行能力は改善しBI100点だったがMMSE26点,病識欠如,作話疑が残存した.精神科OTでは約束事の順守可能となり61病日に一般病院地域包括ケア病棟に転院となった.
【B氏紹介】40代男性,自宅で両親と同居,無職,30代で友人と内装業を始めるが廃業,その後引きこもり飲酒量が増加しX-2年他院でALC依存の診断を受けるが未治療.X年自損事故で当院搬送,けいれん発作を起こしHCU入院,帰宅飲酒願望が増悪しALC離脱せん妄の診断にウェルニッケ脳症の疑いを認め医療保護入院となった.
【経過】入院時は幻視や興奮から身体拘束,14病日に身障OT開始.初期評価は小脳性運動失調SARA4点,TUG10秒,10MWT6.4秒(近位監視),BBS53点,FSST14秒で立位バランスが低下しBI65点だった.HDS-R24点(記憶,語想減点),TMT-A42秒,TMT-B81秒,RBMT標準プロフィール13点,スクリーニング3点,希望は聞かれなかった.精神科OTでは無為状態だった.自宅退院を目標に身体機能訓練,認知機能評価を実施し主治医,精神科OT,MHSW,看護師と適宜情報共有を行った.最終評価はSARA0点,TUG6.1秒,10MWT5.8秒,BBS56点,FSST7秒と立位・歩行能力が改善しBI100点,HDS-R30点,TMT-A33秒,TMT-B84秒,RBMT標準プロフィール18点,スクリーニング7点で記憶や注意面で軽度の障害が残存,精神科OTでは人間関係良好,時間管理が不十分だった.「退院してALC治療受けたい」と希望が聞かれ家族と情報共有し43病日自宅退院,ALC依存症専門病院通院となった.
【考察】両氏共にウェルニッケ・コルサコフ症候群(WKS)にみられる小脳性運動失調と認知機能障害を認めた.谷口ら(2014)はWKSのリハ後に小脳性運動失調は改善しADLは自立したと述べており,両氏も同様の経過となったが退院時に記憶や注意障害は残存した.また身障OTと精神科OTの協働は障害像や目的の共有が容易であり相互作用につながったと考える.更に身障OTが普段実施しているICFに即した評価や治療経過の情報は精神科医師やMHSWにも有効な情報源となることが確認できた.
精神科入院患者に心身両面へのアプローチの必要性が求められて(河埜ら2014)久しい.当院では精神科入院患者に身体機能へのアプローチを目的に身体障害領域のOT(身障OT)の依頼が度々ある.今回アルコール(ALC)離脱せん妄を呈したALC依存症の2例を担当する機会を得た.そこで身障OTが精神科入院患者を担当する効果を実感したので報告する.本発表に際し書面口頭で説明し同意を得た.
【A氏紹介】50代男性,自宅で弟(精神障害)と二人暮らし,就労中.X年自宅付近で転倒し救急搬送,ALC離脱せん妄を認め当院精神科へ医療保護入院となる.
【経過】入院時は振戦,幻覚,妄想が強く放尿,離院行動,転倒を認め身体拘束となりコルサコフ症候群が疑われた.21病日に身障OT開始,初期評価では小脳性運動失調SARA12点,BBS14点,平行棒内介助歩行,MMSE15点,病識欠如,作話疑を認めBI10点だった.精神科OTでは約束事の不順守を認めた.立位歩行能力,ADL改善を目標に身体機能,ADL練習を進めた.希望は「早く退院して仕事に復帰する」だった.OT場面の変化を病棟で汎化できるよう精神科OT,看護師と情報共有した.30病日頃に「なぜ入院しているのかわからない,仕事や運転に問題はない」との言動があった.この時点では転倒リスクが高く,当院運転評価(机上)結果は「回復期病院でシミュレータ評価を推奨」だったため早期自宅退院ではなく回復期病院への転院を提案した.主治医,精神科OT,MHSW,看護師と情報共有を行い自宅復帰に向けた転院の方針となった.最終評価はSARA0点,TUG8.3秒,10m歩行試験(10MWT)6.7秒,BBS56点と立位歩行能力は改善しBI100点だったがMMSE26点,病識欠如,作話疑が残存した.精神科OTでは約束事の順守可能となり61病日に一般病院地域包括ケア病棟に転院となった.
【B氏紹介】40代男性,自宅で両親と同居,無職,30代で友人と内装業を始めるが廃業,その後引きこもり飲酒量が増加しX-2年他院でALC依存の診断を受けるが未治療.X年自損事故で当院搬送,けいれん発作を起こしHCU入院,帰宅飲酒願望が増悪しALC離脱せん妄の診断にウェルニッケ脳症の疑いを認め医療保護入院となった.
【経過】入院時は幻視や興奮から身体拘束,14病日に身障OT開始.初期評価は小脳性運動失調SARA4点,TUG10秒,10MWT6.4秒(近位監視),BBS53点,FSST14秒で立位バランスが低下しBI65点だった.HDS-R24点(記憶,語想減点),TMT-A42秒,TMT-B81秒,RBMT標準プロフィール13点,スクリーニング3点,希望は聞かれなかった.精神科OTでは無為状態だった.自宅退院を目標に身体機能訓練,認知機能評価を実施し主治医,精神科OT,MHSW,看護師と適宜情報共有を行った.最終評価はSARA0点,TUG6.1秒,10MWT5.8秒,BBS56点,FSST7秒と立位・歩行能力が改善しBI100点,HDS-R30点,TMT-A33秒,TMT-B84秒,RBMT標準プロフィール18点,スクリーニング7点で記憶や注意面で軽度の障害が残存,精神科OTでは人間関係良好,時間管理が不十分だった.「退院してALC治療受けたい」と希望が聞かれ家族と情報共有し43病日自宅退院,ALC依存症専門病院通院となった.
【考察】両氏共にウェルニッケ・コルサコフ症候群(WKS)にみられる小脳性運動失調と認知機能障害を認めた.谷口ら(2014)はWKSのリハ後に小脳性運動失調は改善しADLは自立したと述べており,両氏も同様の経過となったが退院時に記憶や注意障害は残存した.また身障OTと精神科OTの協働は障害像や目的の共有が容易であり相互作用につながったと考える.更に身障OTが普段実施しているICFに即した評価や治療経過の情報は精神科医師やMHSWにも有効な情報源となることが確認できた.