第58回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PH-4-2] 精神障害をもつ人の作業バランスに関するスコーピングレビュー

東 ひなた1, 胡 友恵2, 鄭 弘敏1, 四本 かやの2 (1.神戸大学大学院保健学研究科 博士課程前期課程, 2.神戸大学大学院保健学研究科)

【序論】
 作業バランスは健康と幸福のために重要である.作業バランスは,適切な作業の量と作業間の適切なバリエーションをもつという個人の認識である(Wagmanら,2012)が,その定義は明確でなく様々に論じられている.精神障害をもつ人において作業バランスは,パーソナルリカバリーや生活の質などと関係があり(Eklundら,2016),精神障害をもつ人の作業バランスに関する研究の発展が必要である.一方で,精神障害をもつ人の作業バランスに関する研究の実態を明らかにした文献研究は見当たらない.本研究の目的は,精神障害をもつ人の作業バランスに関する研究を概観し,精神障害をもつ人の作業バランスの評価対象を明らかにすることである.
【方法】
 Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analyses extension for Scoping Reviewsに基づきスコーピングレビューを実施した.データベースは,医中誌Web,メディカルオンライン,CiNii Research,CINAHL,PubMed,Web of Science,OT seekerを使用し,検索期間は最終検索日(2023年10月8日)までとした.検索式は,検索語「作業バランス」「精神障害(碍)(がい)」「精神疾患」「occupational balance」「mental disorder(s)」「mental ill(ness)」を組み合わせて作成した.データベース以外の情報源からの追加文献は,作業バランスに関する文献研究4編(Wagmanら,2015;Eklundら,2017;Wagmanら,2019;山根ら,2022)の文献リスト中の精神障害をもつ人を対象とした文献とした.文献選択は本研究の目的に合わせて作成した適格基準に従った.選択された文献について,精神障害をもつ人の作業バランスに関する研究の概要をまとめた.次に各文献から,精神障害をもつ人の作業バランスの評価部分を抜き出し,その評価対象をWagmanら(2012)を参考にカテゴリ分類した.分類が困難であったものは別途検討した.
【結果】
 選択された文献は和文2編,英文16編の計18編であり,和文の対象は邦人,英文の対象は各国の人であった.研究デザインは,横断研究:和文1編含む13編,症例報告:和文1編含む2編,ランダム化比較試験:2編,1群事前事後テストデザイン:1編であった.作業バランスの評価尺度や調査票を用いた文献は18編中17編であり,使用された評価尺度・調査票は12種類であった.作業バランスの評価対象は,<作業の領域>13編,<特徴の異なる作業>10編,<時間使用>15編に分類され,6編は分類が困難であるものを含んだ(重複含む).分類が困難であった作業バランスの評価対象の特徴を検討した結果,価値,バランス,エネルギー,作業数,リカバリーであった.
【考察】
 精神障害をもつ人の作業バランスに関する研究は,観察研究が多く,介入研究が少なく,エビデンスレベルの高い研究デザインが不足していた.このことがシステマティックレビューやメタアナリシスが実施されていない原因の一つであると考えられる.特に和文の文献は介入研究がなく,得られる知見には限界がある.また作業バランスに関する文献研究について,対象を限定したものは見られないため,精神障害をもつ人とそれ以外の対象との比較は困難であった.
 精神障害をもつ人の作業バランスの評価対象は,特に時間使用との結び付きが強いと考えられた.一方で,使用された評価尺度・調査票と,分類困難であった作業バランスの評価対象の多様性から,精神障害をもつ人の作業バランスが多義的であることが示唆された.これは作業バランスの定義が明確でないことから生じている可能性があり,今後作業バランスとは何かを明確にすることが必要だと考えられる.