第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5 

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-5-6] テキストマイニングによる精神科作業療法の動向分析

時代的変遷の視点から

池谷 政直1,2 (1.名古屋女子大学 医療科学部作業療法学科, 2.立命館大学大学院 先端総合学術研究科一貫制博士課程)

【背景および目的】
地域包括ケアシステムにおいて精神障害への対応が重要視される中,作業療法士は他職種と連携し地域移行や地域定着を支援する役割を担っている.しかし,他職種からは「作業療法の姿が見えない,何をしているかわからない」といった声が聞かれている(作業療法マニュアル79,2023).この状況は,臨床の実態や変遷を探求し,精神科作業療法の特色や本質を明確化し示す必要性を示唆している.先行研究は学術誌『作業療法』に掲載された論文を基に研究動向を検討しているが,臨床現場での知見は必ずしも文献に反映されていない.そのため,本研究は日本作業療法学会で発表された演題の時系列分析を通じて,精神科作業療法の動向と課題を明らかにすることを目的とした.
【方法】
日本作業療法士協会(以下,OT協会)学術データベース内の日本作業療法学会発表演題を分析対象とした.2006年~2023年までの『精神障害』の演題区分と,他の演題区分における精神障害に関連した作業療法実践の演題タイトルを抽出した.分析にはKH Coder(樋口,2014)を使用し,計量テキスト分析を実施した.時期ごとの臨床的課題や中心的取り組みとの関連を探るため,医療の動向やニーズに基づいて策定されているOT協会の長期活動計画(以下,計画)や5ヵ年戦略(以下,戦略)の期間を外部変数とし,共起ネットワークを構築した.分析に使用した演題は個人情報保護や倫理的配慮の審査を受けている.COI状態はない.
【結果】
分析対象となった演題は1,654件であった.共起ネットワーク分析より,『作業療法』『患者』『統合失調症』といった媒介中心性の高い語が確認された.また,『精神科』作業療法の実践の場として入院以外に『デイケア』が挙がったほか,『活動』『作業』『プログラム』を『用い』た作業療法実践の有効性や『効果』の『検討』,入院環境から地域『生活』への一貫した『支援』,対象者の意味のある『作業』への参加や,『作業』遂行上の課題へのアプローチに関連する語が認められた.特定の期間に現れた特徴的な語には,第3次計画では『精神障害者』『長期入院』『グループ』『取り組み』『試み』が,第2次戦略では『社会』,第3次戦略では『入院』『実践』,第4次戦略では『介入』『精神』『改善』『比較』『うつ病』が見られた.
【考察】
学会発表の多くは統合失調症患者の作業療法に関連しており,先行研究(清家ら,2019)の結果と一致していた.共起ネットワーク分析からは,多様な活動・プログラムを通じて患者の希望する生活の実現や社会復帰を支援する精神科作業療法の本質が見えてきた.時系列で見ると特徴語は時間の経過とともに変化していた.第3次計画から第2次戦略の期間には,長期入院患者への退院支援や社会復帰に向けた作業療法が中心的な実践であった.第3次戦略から第4次戦略にかけては,再入院リスクの検討や新規入院患者の早期地域移行に関連する報告が増加したことが伺える.そして,第4次戦略では『介入』『改善』『比較』といった語が見られ,作業療法の効果検証に関する研究や実践報告の増加が示されたが,『生活』との共起関係は見られなかった.地域共生社会の構築に寄与する作業療法のあり方を模索する中で,地域に根ざした作業療法の実践報告や臨床研究の増加が望まれる.これにより,精神科作業療法の本質を踏まえた作業療法士の役割がより明確になり,地域社会での活用が促進されることが期待される.また,第4次戦略での『うつ病』の出現は現代のニーズに応じた作業療法士の役割拡大を示唆し,医療機関内外で患者の活動や参加に働きかける作業療法へのニーズの表れであると考える.