第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-8-1] 産業精神保健における一次予防の直接的実践と間接的実践についての検討

照井 林陽1, 會田 玉美2 (1.Any-sign lab, 2.目白大学大学院 リハビリテーション学研究科)

【序論】 
 2015年以降,我が国の労働者を取り巻くメンタルヘルス対策はストレスチェック制度義務化や過重労働による健康障害防止のための総合対策など,対策と法令整備が進んできた.しかしながら,仕事や職業生活に強い不安やストレスを感じる労働者の割合は過去5年間で増加しており,メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は増加傾向にある.また,精神障害による過労死等の労災補償の請求件数と決定件数も5年間で増加傾向にあり,作業療法士を含む専門職が産業精神保健に携わることが望まれる状況にあると考えられる.
【目的】
 インタビュー調査を行った作業療法士の一次予防実践者のうち,対象者への直接アプローチ経験がある直接的実践者,間接的アプローチ経験がある間接的実践者とで,その実践概要を比較し,共通点や差異について検討し,考察する.
【方法】
 直接的実践者と間接的実践者へインタビューによる調査を行い,逐語録よりその実践概要を比較した.本研究はA大学医学系倫理審査の承認を受けて行った(承認番号20医研‐007).なお,直接的実践者は労働者への働きかけ,間接的実践者は労働者を取り巻く人的環境への働きかけを検討対象の実践とした.研究協力者は,直接的実践者をA群とし,間接的実践者をB群とした.
【結果】
 直接的実践者8名と間接的実践者5名の協力が得られた.インタビュー期間は2021年5月21日より10月12日であった.各群の実践概要逐語録よりコーディングした結果,A群の実践概要は,個別相談対応,カウンセリング,集団プログラム,自殺予防対応,ピアサポート運営,メンタルヘルス啓蒙活動,心身の状態確認,受療支援,高ストレス者の相談対応,メンタルヘルス関連研修,アルコール問題の啓蒙が挙げられた.B群の実践概要は,企業への助言,家族への助言,産業保健職への助言,メンタルヘルス関連の研修が挙げられた.
【考察】
 A群とB群の実践概要を整理した結果から, A群の実践には個別の働きかけとして相談対応や受療支援,自殺予防対応,高ストレス者の相談対応,心身の状態確認といった専門的対応が確認された.また,集団を通じての働きかけとしては集団プログラム,ピアサポート運営,メンタルヘルス等の啓蒙活動や関連研修が挙げられ,個別対応から研修までと,範囲が広く専門性の高い対応が含まれていた.B群の実践には,企業,家族,産業保健職への助言とメンタルヘルス関連研修が挙げられており,労働者が所属する企業だけではなく,他の産業保健職や労働者の家族を含む人的環境を対象とした働きかけが含まれていた.両群の実践には,メンタルヘルスに関わる研修の実施に共通点があり,作業療法士として養成教育や臨床実践等を通じて学んだ知識が活かされていると考えられる.一方,A群の実践には受療支援やカウンセリング,高ストレス者の対応や自殺予防対応なども含まれており,これらは養成教育のカリキュラムで詳細に学ぶことが少ないため,新卒OTでは対応が難しいと考えられる.直接的実践を行うためには,対象者のメンタル不調時や自殺リスク,受療支援が必要な際における対応技術や知識および経験の補完が必要と考えられる.つまり,それらを補完することにより,参画した際の実践を円滑にする可能性が高くなると考えられる.本インタビュー調査では一次予防を実践する研究協力者のサンプルが13名と乏しく,明らかとなった実践概要は限定されている.今後,一次予防実践者のデータを蓄積することにより,実践者の実践状況を調査し検討する必要がある.