第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-9] ポスター:精神障害 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-9-1] 統合失調症患者における認知機能障害の程度と適応できるクライシスプランの関連

佐々木 智里, 今野 梓, 加納 いずみ, 高見 美貴 (秋田県立リハビリテーション・精神医療センター 機能訓練部)

【背景】
精神障害者のクライシスプラン(以下,CP)は安定した心身状態の維持を目的に,病状悪化の兆候が見られた際の自己対処と支援者の対応方法をあらかじめ決めておく計画である.当院では,医師,看護師,作業療法士,臨床心理士,精神保健福祉士,薬剤師,管理栄養士などの多職種チームで協議しながらCPを作成しているが,患者自身がCPを十分に理解し実践することが求められる.それゆえ,作成者が患者個々の心身機能状態の違いに応じて適切なCPを作成することには多くの時間や熟練を要する.
【目的】
そこで今回,これまで統合失調症患者に作成したCPを質的に分析,分類を行い,患者の年齢,性別,認知機能障害の程度や特徴との関連性を後方視的に検証し,今後のCP作成上の参考とすることを目的とした.尚,本研究は当院の倫理審査会で承認を受けた.
【対象】
対象は,2020年1月から2023年9月に当院の精神科病棟に入院し精神科作業療法を実施した統合失調症患者のうち退院支援の開始時にCPを作成,実践したもの16名,男9名,女7名であった.対象者の条件は認知機能検査が実施可能なものとした.前例とも精神症状は安定しADLは自立していた.
【方法】
認知機能障害の検査は統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(以下,BACS-J)をCP作成時に担当作業療法士が実施した.
はじめにCPを3名の作業療法士が,項目数と項目内容の視点で分類を行った.次にこの分類ごとに使用した患者を群分けし,各群の年齢,性別,BACS-J総合得点のZ-score(以下,Z-score)を比較した.統計学的分析は,年齢,Z-scoreを対応のないt検定で,性別はχ2乗検定で行い,危険率は5%未満とした.
【結果と考察】
CPを分析した結果,項目数が1つのみのものと複数(2~4項目)のものに2分された.前者の内容は不調時の自己対処法と支援者の対応方法を簡潔に記したもので10名が使用した.後者は患者ごとの想定される具体的場面における自己対処法と支援者の対応方法を記載したもので6名が用いた.従って当院におけるCPは大まかにこの2通りに分類可能と考えられ,項目数1つのものを簡易版,複数のものを複雑版と定義し,簡易版,複雑版を用いた患者をそれぞれ簡易群10名,複雑群6名に群分けした.
対象者全体の平均年齢は40±11歳,Z-scoreの平均は-1.6±0.6であった.次に,各群の統計学的な比較結果を簡易群,複雑群の順に示す.平均年齢は36±11歳,45±9歳,性別(男:女)は6:4,3:3で差はなかった.Z-scoreの平均は-1.88±0.54,-1.13±0.37で有意に簡易群が低かった(P<0.05).Z-scoreとは各年代の健常者平均値を0とし健常者より認知機能が低い場合「-」として表記され,-0.5以上-1.0未満を軽度障害,-1.0以上-1.5未満を中等度障害,-1.5以下を重度障害としており,対象者の認知機能は両群とも正常より明らかに低下していると言えた.
CPは対象者が理解し使用できるものが前提となる.今回の結果から簡易版,複雑版の大まかな判断において認知機能評価を参考に作成可能と考えられた.またCP作成が効率化することでCPの実践的介入に充てられる時間が増加できると思われた.