第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-9] ポスター:精神障害 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-9-3] 認知行動療法と作業療法の併用により不適応行動の変容を認めた慢性期統合失調症患者の一例

藤本 一輝1, 大野 宏明2 (1.医療法人紘友会 福山友愛病院 作業療法部, 2.川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】近年,考え方が偏り不適応的な思考が行動に影響を与えた際,認知の在り方に働きかけて問題解決を図っていくことを目的とした認知行動療法(以下CBT)が注目されている.今回,作業療法(以下OT)場面で幻聴と妄想が関連することでルールが守れずデイルームに大量の私物を持ち込むといった不適応行動が認められる慢性期統合失調症患者に対し,問題解決法と認知再構成法を中心としたCBTを行い,集団OTにて実践と振り返りを行った.その結果,A氏の不適応行動に対し,OT中の私物の持ち込み量は減少し,妄想的思考に対しても現実的な考えの切り替えをすることが介入前よりも容易になったため報告する.本事例に際し説明と同意を得ており,プライバシー保護も配慮している.
【症例紹介】氏名:A氏,60歳代後半,診断名:統合失調症,現病歴:X−30年より,「人に噂されている」などの関係妄想及び幻聴を主訴に当院に受診し統合失調症と診断を受け,入退院を繰り返していた.退院後はグループホームに入所.デイケア(以下DC)にも参加し処方薬も服用していたが,X年Y−1月より精神状態が悪化.幻聴が強まり頭痛や体調不良の訴えが聞かれたため受診.その後入院の運びとなりX年Y月より薬物療法と併用し,病棟での集団OTが開始となった.
【OT導入時評価】介入前に半構造化面接を行いLASMIにて評価を行った.評価結果として,日常生活1.5点,対人関係2.8点,労働または課題の遂行1.9点,持続性・安定性5.5点,自己認識2.3点であった.また,A氏の困りごととして「OT中にDCの人間が自室の荷物を物色している」「自室を荒らすと耳元で囁いてくる」等の被害的な訴えが聞かれた.
【A氏の参加プログラム】作業活動を中心とした集団OTに加え,個人OT の形態で週1回生活上の困りごとを話し合う場を設け,対処法の検討を認知再構成法や問題解決法を中心とした技法を用いて支援を行い,次週に生活上の振り返りを行った.また,A氏の編み物が好きというストレングスを活かし,妄想的思考から切り替えるツールとして編み物を取り入れた.
【経過】合計15回のCBTを実施した.8回目までの介入では問題のリスト化を行い,特に私物の持ち込みを中心とした問題行動に焦点を当て解決策の検討を促す問題解決法を用いた介入を行った.しかし,妄想の占有度が高い状態ではセルフモニタリングが難しく,解決案の実行ができずに私物の持ち込みの増加が認められた.そのため,10回目以降は妄想的思考に陥りやすい認知面と自動思考に焦点を当てた認知再構成法を用いた介入を行い,偏った思考に対し,支持する根拠と反証を促し対処法の検討を行った.
【結果】LASMIの最終評価結果は労働または課題の遂行1.7点,自己認識2.0点とわずかではあるが変容が認められた.また,自動思考に焦点を当てた認知再構成法を用いた介入は,A氏の様々な偏った考えに対して反証による視点を検討し,フィードバックを通すことで私物の持ち込みは減少することに繋がり,妄想的思考に対しても現実的な考えの切り替えをすることが介入前よりも容易になった.
【考察】A氏の〝物がとられる不安〟に関しては幻聴や妄想が影響し,被害観念が徐々に固定化していくことで被害妄想に発展したのではないかと考える.また,A氏にとって関心を持つ編み物という作業に取り組むことで安心感や気分転換の効果をもたらしたこともあり,自室に置いた私物の確認行為に至る事もなかったと考えられる.OTとCBTの活用は認知の修正に働きかけ,その過程は生活の質を高めるリカバリーの一助としても有用であったと考える.