第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-9] ポスター:精神障害 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-9-5] アルツハイマー型認知症患者の強みを活かした介入により主観・客観的QOLが向上した一症例

ストレングスモデルの活用

中岡 啓志1, 金月 康明1, 古田 翔太2, 新田 やす枝1 (1.医療法人社団 せがわ会 千代田病院 リハビリテーション科, 2.学校法人同志舎 リハビリテーションカレッジ島根 作業療法学科)

【はじめに】
今回,リカバリーの視点からストレングスモデルを用いて「夢/希望」の達成を目指した関わりを実施した.歌が好きな本症例に対し,集団音楽プログラムを実施したことで主観・客観的QOLの向上がみられたため以下に報告する.今回の報告に際し,本人・家族に書面にて説明し同意を得ている.
【症例紹介】
80歳代後半女性.歌が好き,面倒見がよい性格.主訴は「ひとりは寂しい」「家には帰りたくない」であった.X−1年頃より記憶力の低下を認め,近隣とのトラブルもあり他院受診にてアルツハイマー型認知症と診断.独居生活中に不安・焦燥感,脱抑制に伴う逸脱行為あり,当院入院となる.
【作業療法評価(ストレングスモデル)】
私のしたいこと,夢は「皆で楽しいことしたい」であった.夢の実現に役立つ現在の強みとして,ADOC(重要である項目)は「カラオケ」満足度3/5,「音楽・DVD鑑賞」満足度2/5であった.これまでの出来事として,Y+2ヵ月頃より,薬物療法にて逸脱行為が改善傾向.BIは80点.SMSFは「緊張・不安」5/10,回復段階を問うと「50%」と回答.MMSEは17点.FABは9点.QOL-Dは85/124点であった.
【方法】
実施期間はY+6~Y+12ヵ月の間,週1回,60分間.集団形態はオープングループで参加者は5~8名とした.プログラム内容は(1)選曲リスト配布(1930~80年代の名曲),(2)参加者又はスタッフが選曲,(3)プロジェクターにてカラオケ映像上映,(4)鑑賞の感想を共有,(5)(2)~(4)繰り返しとした.
【経過】
1~2ヵ月目は仲の良い他患が居ないと不安な表情があった.3~4ヵ月目は曲が始まるとすぐに歌い始めた.間奏時には「昔から歌うんはずっとすきよ」と自ら話された.5~6ヵ月目は「この曲いいよね」と話をする対象が増え,仲の良い他患が居なくても不安な表情はなかった.
【結果】
ADOC(重要である項目)は「カラオケ」満足度5/5,「音楽・DVD鑑賞」満足度5/5となった.SMSFは「緊張・不安」1.1/10,回復段階を問うと「80%」と回答.QOL-Dは91/124点となった.
【考察】
ストレングスモデルには「性質/性格」「技能/才能」「環境のストレングス」「夢/希望」の4つがあり,「夢/希望」のストレングスは患者が立てた目標の達成に最も重要とされている.2)本症例は「皆で楽しいことしたい」という「夢/希望」を持っていた.“歌うことが好き”という強みを活かし,歌を媒介とした集団を設定したことで他者との交流が拡大した.「歌うこと」と「集団充足感を得たこと」で不安症状が改善され,主観・客観的QOLが向上したと考える.強みを活かした関わりは生きがいを実感できる院内生活の一助となり,次の環境での適応にも応用できると考える.
【参考文献】
1) 医学書院:【対談】患者さんの「在りたい自分」に向き合う看護技術 ストレングスモデルを始めよう! 週刊医学界新聞.2016.第3192号p.2 
2) Rapp C,Goscha J(著):田中英樹(監訳) ストレングスモデル—リカバリ—志向の精神保健福祉サービス—[第3版] 金剛出版.2011/2014