[PI-3-1] 発達特性について検討した完全脳梁欠損症の1症例
【背景】脳梁欠損症は胎生10~17週に脳梁が何らかの原因で形成不全を来したものの総称で発症率は1/4000人である.従来,脳梁欠損単独例では機能予後が良好と考えられていたが,近年は神経心理学的発達の遅れが指摘されている.しかし,発達経過に関する具体的な報告は少なく,これに対するリハビリテーション治療内容と発達特性を検討した報告はない.今回,完全脳梁欠損症児に対し作業療法を1年間実施し,これを検討したので報告する.
【症例】2歳6か月女児.胎児超音波検査で脳室拡大,脳梁菲薄化を指摘されたが周産期異常なく在胎40週1日,2965g,緊急帝王切開で仮死なく出生.その後も頭囲拡大,発達の遅れなく経過し1歳2か月で当院初診.頭部MRI検査では全脳梁構造認めず,Probst bundle形成あり完全脳梁欠損症と診断された.運動機能は独歩獲得まで正常だったが,階段昇降以降の獲得は遅れた.1歳半の時点で言語は「バイバイ」のみで,指差しやアイコンタクトは少なかった.言語発達の遅れに対し言語療法が1歳10か月,運動発達の遅れに対し理学療法が2歳で開始された.作業療法は言語発達の遅れ,落ち着きのなさを主訴に2歳6か月から開始された.
【方法】作業療法士(OT)は母親同席で自由遊びを2~4回/月(60分/回)実施した. 評価はOTによる行動観察,養育者による感覚プロファイル短縮版(SSP)で初期(2歳7か月),中間期(3歳1か月),最終期(3歳7か月)に行った.なお,発表にあたり保護者に説明し口頭にて同意を得た.
【経過・結果】行動観察は,初期では,発語は名詞が数語で文脈に関係なく偶発的な表出だった.遊びは1歳児レベルの玩具の使用はできるが,視覚・聴覚刺激をきっかけに手当たり次第に遊びを変更し1つの活動時間は短かった.対人面はアイコンタクトや援助要求がなく,他者交流は少なかった.作業療法では,援助を要する場面(玩具をとる等)を児の行動パターンから予測し言語・場面・相手が一致するよう意識して関わった.中間期では,単語レベルの発語が増え,お気に入りの玩具やパターン化された関わり遊びは5回程度反復された.対人面は「抱っこ」「開けて」と援助要求をしたり,母親の後追いや行動模倣をした.一方,思い通りに進まないと瞬時に泣き叫ぶ行動が増え,易刺激性は強まった.作業療法では,2語文を促したり,情動コントロール・行動プランニングを要する場面設定を意識した.最終期では,言語表出は波があり,2語文を話す日もあれば,行動化が先行したり,オウム返しを繰り返す日もあった.遊びは児主導のごっこ遊びを行い,同年代の児を観察・行動模倣するようになった.ルーチン化された活動(挨拶,靴の脱ぎ履き等)は自発的に行うが,自由場面では1活動に取り組む時間は5分程度で,易刺激性は中等度残存していた.
SSPの因子別得点(初期→中間→最終)は触覚過敏性(12→12→15/35点),味覚・嗅覚過敏性(15→10→11/20点),動きへの過敏性(5→4→3/15点),低反応・感覚探求(25→16→23/35点),聴覚フィルタリング(16→16→22/30点),低活動・弱さ(16→12→20/30点),視覚・聴覚過敏性(15→16→13/25点)であった.
【考察】本症例のように自由遊びの中でOTと対人経験を積むことは言語・社会性の発達を促したが,感覚処理能力は必ずしも改善せず,易刺激性・衝動性を伴う行動は残存した.無症候性脳梁欠損症でも感覚運動情報の大脳半球間伝達減少,認知処理時間増加,複雑な情報や不慣れなタスクの処理能力不足を認めた(Brownら,2019)という報告もあることから,これには脳梁欠損に伴う感覚情報の選択や統合の不備が関与している可能性がある.
【症例】2歳6か月女児.胎児超音波検査で脳室拡大,脳梁菲薄化を指摘されたが周産期異常なく在胎40週1日,2965g,緊急帝王切開で仮死なく出生.その後も頭囲拡大,発達の遅れなく経過し1歳2か月で当院初診.頭部MRI検査では全脳梁構造認めず,Probst bundle形成あり完全脳梁欠損症と診断された.運動機能は独歩獲得まで正常だったが,階段昇降以降の獲得は遅れた.1歳半の時点で言語は「バイバイ」のみで,指差しやアイコンタクトは少なかった.言語発達の遅れに対し言語療法が1歳10か月,運動発達の遅れに対し理学療法が2歳で開始された.作業療法は言語発達の遅れ,落ち着きのなさを主訴に2歳6か月から開始された.
【方法】作業療法士(OT)は母親同席で自由遊びを2~4回/月(60分/回)実施した. 評価はOTによる行動観察,養育者による感覚プロファイル短縮版(SSP)で初期(2歳7か月),中間期(3歳1か月),最終期(3歳7か月)に行った.なお,発表にあたり保護者に説明し口頭にて同意を得た.
【経過・結果】行動観察は,初期では,発語は名詞が数語で文脈に関係なく偶発的な表出だった.遊びは1歳児レベルの玩具の使用はできるが,視覚・聴覚刺激をきっかけに手当たり次第に遊びを変更し1つの活動時間は短かった.対人面はアイコンタクトや援助要求がなく,他者交流は少なかった.作業療法では,援助を要する場面(玩具をとる等)を児の行動パターンから予測し言語・場面・相手が一致するよう意識して関わった.中間期では,単語レベルの発語が増え,お気に入りの玩具やパターン化された関わり遊びは5回程度反復された.対人面は「抱っこ」「開けて」と援助要求をしたり,母親の後追いや行動模倣をした.一方,思い通りに進まないと瞬時に泣き叫ぶ行動が増え,易刺激性は強まった.作業療法では,2語文を促したり,情動コントロール・行動プランニングを要する場面設定を意識した.最終期では,言語表出は波があり,2語文を話す日もあれば,行動化が先行したり,オウム返しを繰り返す日もあった.遊びは児主導のごっこ遊びを行い,同年代の児を観察・行動模倣するようになった.ルーチン化された活動(挨拶,靴の脱ぎ履き等)は自発的に行うが,自由場面では1活動に取り組む時間は5分程度で,易刺激性は中等度残存していた.
SSPの因子別得点(初期→中間→最終)は触覚過敏性(12→12→15/35点),味覚・嗅覚過敏性(15→10→11/20点),動きへの過敏性(5→4→3/15点),低反応・感覚探求(25→16→23/35点),聴覚フィルタリング(16→16→22/30点),低活動・弱さ(16→12→20/30点),視覚・聴覚過敏性(15→16→13/25点)であった.
【考察】本症例のように自由遊びの中でOTと対人経験を積むことは言語・社会性の発達を促したが,感覚処理能力は必ずしも改善せず,易刺激性・衝動性を伴う行動は残存した.無症候性脳梁欠損症でも感覚運動情報の大脳半球間伝達減少,認知処理時間増加,複雑な情報や不慣れなタスクの処理能力不足を認めた(Brownら,2019)という報告もあることから,これには脳梁欠損に伴う感覚情報の選択や統合の不備が関与している可能性がある.