[PI-3-2] 母親の主体性を引き出す保護者支援
OPCを活用して介入した1事例
【はじめに】
障害児リハビリテーションにおいて保護者支援は不可欠な要素である.今回,日々の生活で母親が困難を感じている重度知的障害児を担当した.児の作業遂行の改善を目的に,母親に対して作業遂行コーチング(Occupational performance coaching:OPC)を併用した介入を行い,一定の成果を得られたので報告する.なお本報告に際し,保護者の同意を得ている.
【事例紹介】
特別支援学校在籍の小学1年生男児.診断名はCoffin-Siris症候群で知的水準は重度(DQ35).生活上の困難度は高く(SDQ:“多動”“向社会性”でhigh need),唾吐きや物投げ等の不適切な行動が多く見られる.母は真面目で, 児への関わりは愛護的だが,不適切な行動を予知して事前に抑止する様子はなく, 対応が後手になる場面が目立っていた(PNPS:“関与・見守り”がlow,“過干渉”がhigh).OT初回時(Z日)に児との関わり方を学びたいと希望が挙がった為,OPCを部分的に導入した介入を実施した.
【介入経過】
OPCは養育者と協力して子どもの作業遂行の目標を達成する為の会話療法を主としたコーチング介入である.介入は目標設定セッション(2回)の後, OPCを併用した作業療法介入(4回)を実施した.
(1)目標設定(Z〜30日間):カナダ作業遂行測定(COPM)を実施した. 3つの目標を設定; 1)15分以内に離席なく朝食を食べることができる,2)入浴後10分以内に着替えができる, 3)登校時に怒る場面が減る.
(2)OPC併用介入(Z〜60日間):目標の対応策を母が立案出来るよう促しながら実施. その結果,指示に従う事は嫌うが自発的なお手伝いが好きな児の性格を生かして役割を与える作戦(目標1,2)や, 目的を明確にする事で主体的な取り組みを促す作戦(目標3)等,母が自ら対応策を立案する事ができた.また介入の後半に母の立案した作戦を元に,OTRが児への対応を実践し,関わりのモデルを示した. OPCの忠実性の測定ツールであるOPC-FMは, 平均で83%であった. 児への直接介入を併用した事で,母に対応策を聞き出す機会が減り,OTRの助言が増えた為スコアが低下した.
【結果】
COPMの遂行度は目標1(3→6), 目標2(4→7), 目標3(2→6), 満足度は目標1(4→6), 目標2(3→7), 目標3(3→6)に向上した.母の対応も介入前は「できるかどうかは児の気分次第」と児の行動に圧倒される発言が散見されていたが,介入途中から児の行動に対する理由を考え,対応策を立案するようになり,「少しの工夫で生活が変わる事を実感できた」「他の場面でも工夫できそう」等の発言が聞かれた.
【考察】
重度知的障害の児を持つ母に対し,OPCを活用した介入を行った結果,児の作業遂行が改善し,母の言動にも変化が見られた.保護者支援は保護者が主体的に問題に取り組み,障害や発達特性の理解を深めていく事を支える事が重要である.本事例は①生活レベルでの具体的な目標を母と共有したこと,②母自身が目標に対しての対応策を立案できるようサポートしたこと,③OTと実際場面で対応の工夫を共有し実感が伴ったこと,が有効であり母の主体的な取り組みを促進させる一助となった事が示唆された.
また本事例はOPCでの介入途中でOTRによる児への直接介入を併用したにも関わらず, 作業遂行および母の言動の変化が示された. これはトップダウンの作業療法文脈で実施されていれば, OPCが柔軟に適用できる事を示唆するものである. しかし直接介入を併用した際にはOTRの発信が増え,母からの発信が減る傾向が見られた事を考えると,併用する際にはOPCの基盤となる協力的信頼関係が損なわれない配慮が必要である.
障害児リハビリテーションにおいて保護者支援は不可欠な要素である.今回,日々の生活で母親が困難を感じている重度知的障害児を担当した.児の作業遂行の改善を目的に,母親に対して作業遂行コーチング(Occupational performance coaching:OPC)を併用した介入を行い,一定の成果を得られたので報告する.なお本報告に際し,保護者の同意を得ている.
【事例紹介】
特別支援学校在籍の小学1年生男児.診断名はCoffin-Siris症候群で知的水準は重度(DQ35).生活上の困難度は高く(SDQ:“多動”“向社会性”でhigh need),唾吐きや物投げ等の不適切な行動が多く見られる.母は真面目で, 児への関わりは愛護的だが,不適切な行動を予知して事前に抑止する様子はなく, 対応が後手になる場面が目立っていた(PNPS:“関与・見守り”がlow,“過干渉”がhigh).OT初回時(Z日)に児との関わり方を学びたいと希望が挙がった為,OPCを部分的に導入した介入を実施した.
【介入経過】
OPCは養育者と協力して子どもの作業遂行の目標を達成する為の会話療法を主としたコーチング介入である.介入は目標設定セッション(2回)の後, OPCを併用した作業療法介入(4回)を実施した.
(1)目標設定(Z〜30日間):カナダ作業遂行測定(COPM)を実施した. 3つの目標を設定; 1)15分以内に離席なく朝食を食べることができる,2)入浴後10分以内に着替えができる, 3)登校時に怒る場面が減る.
(2)OPC併用介入(Z〜60日間):目標の対応策を母が立案出来るよう促しながら実施. その結果,指示に従う事は嫌うが自発的なお手伝いが好きな児の性格を生かして役割を与える作戦(目標1,2)や, 目的を明確にする事で主体的な取り組みを促す作戦(目標3)等,母が自ら対応策を立案する事ができた.また介入の後半に母の立案した作戦を元に,OTRが児への対応を実践し,関わりのモデルを示した. OPCの忠実性の測定ツールであるOPC-FMは, 平均で83%であった. 児への直接介入を併用した事で,母に対応策を聞き出す機会が減り,OTRの助言が増えた為スコアが低下した.
【結果】
COPMの遂行度は目標1(3→6), 目標2(4→7), 目標3(2→6), 満足度は目標1(4→6), 目標2(3→7), 目標3(3→6)に向上した.母の対応も介入前は「できるかどうかは児の気分次第」と児の行動に圧倒される発言が散見されていたが,介入途中から児の行動に対する理由を考え,対応策を立案するようになり,「少しの工夫で生活が変わる事を実感できた」「他の場面でも工夫できそう」等の発言が聞かれた.
【考察】
重度知的障害の児を持つ母に対し,OPCを活用した介入を行った結果,児の作業遂行が改善し,母の言動にも変化が見られた.保護者支援は保護者が主体的に問題に取り組み,障害や発達特性の理解を深めていく事を支える事が重要である.本事例は①生活レベルでの具体的な目標を母と共有したこと,②母自身が目標に対しての対応策を立案できるようサポートしたこと,③OTと実際場面で対応の工夫を共有し実感が伴ったこと,が有効であり母の主体的な取り組みを促進させる一助となった事が示唆された.
また本事例はOPCでの介入途中でOTRによる児への直接介入を併用したにも関わらず, 作業遂行および母の言動の変化が示された. これはトップダウンの作業療法文脈で実施されていれば, OPCが柔軟に適用できる事を示唆するものである. しかし直接介入を併用した際にはOTRの発信が増え,母からの発信が減る傾向が見られた事を考えると,併用する際にはOPCの基盤となる協力的信頼関係が損なわれない配慮が必要である.