[PI-3-3] 少年院における作業中心の実践の可能性
【はじめに】
近年,日本の司法領域における作業療法(以下,OT)の参画が広がっているものの,少年矯正施設における報告は9件と少なく(吉田ら,2022),少年院におけるOTの検証が必要である.本実践の少年院は支援教育課程Ⅲを有し,家庭裁判所で少年院送致決定を受けたおおむね15歳以上20歳未満の者のうち,知的能力の制約,対人関係の持ち方の稚拙さ,非社会的行動傾向等に応じた配慮を要する者が収容される特徴がある.実践の中で,個別性に沿った作業中心の実践(以下,OCP)による効果を感じているため,報告する.少年院におけるOCPの可能性を検討することを目的とする.なお,本報告に際し施設からの同意を得ている.
【方法】
介入は,頻度が1人あたり月1-2回(1回45分程度),5-8ヶ月程度の期間で実施される.介入の流れは,1.法務教官による対象者の選定,2.資料からの情報収集,3.対象者との初回面接:社会当時の生活,現在の生活上の困難・できるようになりたいことや役割,出院後の生活のイメージなどついて聴取し,目標を設定,4.担当教官との初回面接:対応に困っていること,身につけて欲しいこと,在院生活の経過などの聴取,見立てや目標の共有,5.評価・介入,6.出院時に終了,である.
【結果】
実践例を示す.1.学習への支援:漢字学習に難しさを感じている対象者に対し,動機付けと現在の学習方法に関する評価を行なった.動機付けが低く,学習方法が単調であるために定着しづらいことが考えられた.漢字学習の利点を今後の生活を想定しながら確認し,学習方法について再考したうえで,1日の課題量の調整を行なったところ,少年院内で行われるテストに合格し,その後も継続して学習に取り組むことができた.COPMは,重要度が10,遂行度が2から8に向上し,満足度が1から9に向上した.2.免許取得への支援:試験合格への不安を抱える対象者に対し,実技科目の工程と難しさを感じる箇所の言語化を促した.遂行上の問題として確認動作の際に手順を間違えることが考えられた.それに対し,実行への注意や手順の言葉並べを使用することを方略として見出したことで動作がスムーズになり,試験に合格することができた.COPMは,重要度が8,遂行度が3から10に向上し,満足度が3から10に向上した.3.役割を遂行するための支援:他者との交流を必要とする係の遂行に難しさがある対象者に対し,自身の社会交流技能について振り返りを促した.遂行上の問題として相手の反応を読み取ったり,発信する情報の量や質を調整することの難しさが考えられた.それに対し,相手の反応をよく観察すること,短い言葉で伝えることを方略として見出し実行したところ,役割をやり遂げることができた.COPMは,重要度が9,遂行度が2から9に向上し,満足度が3から10に向上した.
【考察】
少年院において作業療法士の視点を活かしたOCPを行うことで対象者の遂行能力の向上に寄与することができた.また,介入プロセスを通じて,メタ認知や自己有能感の向上,試行錯誤する経験を積む,出院後の生活をイメージする機会となるなどの効果があったと考える.一方で,実践の困難さとして,特有の環境要因により作業遂行を直接または間接的(動画など)に観察できる場面が少ないことがあげられる.これに対しては,ダイナミック遂行分析や協働的遂行分析を用いて対象者や担当教官と協働して作業遂行を分析している.今後の課題は,少年院での作業遂行が出院後の生活に転移・般化されるよう,帰住先の関係者や保護観察官,保護司などへの情報提供の方法や内容について検討し,作業移行支援を実現する必要がある.
近年,日本の司法領域における作業療法(以下,OT)の参画が広がっているものの,少年矯正施設における報告は9件と少なく(吉田ら,2022),少年院におけるOTの検証が必要である.本実践の少年院は支援教育課程Ⅲを有し,家庭裁判所で少年院送致決定を受けたおおむね15歳以上20歳未満の者のうち,知的能力の制約,対人関係の持ち方の稚拙さ,非社会的行動傾向等に応じた配慮を要する者が収容される特徴がある.実践の中で,個別性に沿った作業中心の実践(以下,OCP)による効果を感じているため,報告する.少年院におけるOCPの可能性を検討することを目的とする.なお,本報告に際し施設からの同意を得ている.
【方法】
介入は,頻度が1人あたり月1-2回(1回45分程度),5-8ヶ月程度の期間で実施される.介入の流れは,1.法務教官による対象者の選定,2.資料からの情報収集,3.対象者との初回面接:社会当時の生活,現在の生活上の困難・できるようになりたいことや役割,出院後の生活のイメージなどついて聴取し,目標を設定,4.担当教官との初回面接:対応に困っていること,身につけて欲しいこと,在院生活の経過などの聴取,見立てや目標の共有,5.評価・介入,6.出院時に終了,である.
【結果】
実践例を示す.1.学習への支援:漢字学習に難しさを感じている対象者に対し,動機付けと現在の学習方法に関する評価を行なった.動機付けが低く,学習方法が単調であるために定着しづらいことが考えられた.漢字学習の利点を今後の生活を想定しながら確認し,学習方法について再考したうえで,1日の課題量の調整を行なったところ,少年院内で行われるテストに合格し,その後も継続して学習に取り組むことができた.COPMは,重要度が10,遂行度が2から8に向上し,満足度が1から9に向上した.2.免許取得への支援:試験合格への不安を抱える対象者に対し,実技科目の工程と難しさを感じる箇所の言語化を促した.遂行上の問題として確認動作の際に手順を間違えることが考えられた.それに対し,実行への注意や手順の言葉並べを使用することを方略として見出したことで動作がスムーズになり,試験に合格することができた.COPMは,重要度が8,遂行度が3から10に向上し,満足度が3から10に向上した.3.役割を遂行するための支援:他者との交流を必要とする係の遂行に難しさがある対象者に対し,自身の社会交流技能について振り返りを促した.遂行上の問題として相手の反応を読み取ったり,発信する情報の量や質を調整することの難しさが考えられた.それに対し,相手の反応をよく観察すること,短い言葉で伝えることを方略として見出し実行したところ,役割をやり遂げることができた.COPMは,重要度が9,遂行度が2から9に向上し,満足度が3から10に向上した.
【考察】
少年院において作業療法士の視点を活かしたOCPを行うことで対象者の遂行能力の向上に寄与することができた.また,介入プロセスを通じて,メタ認知や自己有能感の向上,試行錯誤する経験を積む,出院後の生活をイメージする機会となるなどの効果があったと考える.一方で,実践の困難さとして,特有の環境要因により作業遂行を直接または間接的(動画など)に観察できる場面が少ないことがあげられる.これに対しては,ダイナミック遂行分析や協働的遂行分析を用いて対象者や担当教官と協働して作業遂行を分析している.今後の課題は,少年院での作業遂行が出院後の生活に転移・般化されるよう,帰住先の関係者や保護観察官,保護司などへの情報提供の方法や内容について検討し,作業移行支援を実現する必要がある.