[PI-3-5] 漢字書字に困難を示す児童への視覚情報処理機能に焦点を当てた一事例
【はじめに】全国の小学校・中学校の通常学級に在籍する生徒の3.5%に「読む」又は「書く」に著しい困難を示すと言われている(文部科学省, 2022). 漢字書字の困難さの背景要因は多様である. 今回, 漢字書字に困難さを持つ児童に対し, 視覚情報処理機能に焦点を当て評価・介入を行い, 学習場面において漢字書字の使用頻度が高まったため報告する. 本児と保護者に本報告の旨を説明し, 口頭及び書面にて同意を得ている. 【事例紹介】9歳9か月女児. 自閉スペクトラム症(以下, ASD). 地域小学校の支援級在籍. 保護者の主訴として,「漢字の書き間違いが多い」「部首と旁などのイメージはあるが細部が思い出せない」「漢字を構成する線が一本多いことや少ない」などが挙げられ, 視覚情報処理機能の問題に起因する書字の困難さがあった. また, 「完璧主義であり, 間違うことに抵抗感が強い」と言ったASDの特徴による課題に対しての適応の困難さも挙げられた. 【初期評価】漢字書字場面の観察では, 「見本をノートに書き写す際に間違える」「漢字の構成を間違える」様子が観察された. 視覚関連機能を評価するWAVESでは, 11項目中7項目で平均値を下回った. 特に, 図地判別を評価する「形さがし」では評価点7であった. また, 複数重なった星の図形から1つの星の図形をペンでなぞる課題では, 途中で異なる星の図形を塗り, 1つの形を抽出することが難しかった. 図形を模写する「形うつし」では評価点5であり, 見本の升目がなくなると図形の位置がずれ, 空間を的確に捉えて模写することが困難であった. JPAN感覚処理行為機能検査では, 視知覚機能の項目で6-16%tilesであった. 以上より, 漢字書字の困難さの背景には, 図地判別, 空間知覚など視覚情報処理機能の問題が大きいと想定された. 【介入】漢字書字の困難さの背景にある, 図地判別, 空間知覚の問題に対して以下のプログラムを月3回(40分/回)の頻度で4か月間行った. 図地判別の問題に対して, カラー粘土を使って見本通りに漢字を作ることを実施した. その際, 書き順を意識しながら一画ずつ粘土の色を変えることで, 線の重なりや漢字の構成, 一画の細部にまで意識が及ぶようにサポートした. 空間知覚の問題に対しては, カラーマスノートを使った漢字書字の課題を実施することで, 空間を視覚化するサポートを行った. また, 「間違うことに抵抗感が強い」ことに対して, PCの漢字検索機能をいつでも使用できる状態にし「分からない, 見通しが立たない」という時間を作らないよう関わった. 【最終評価】WAVESの下位検査11項目中8項目で平均値を上回り, 8項目で初期評価より評価点の向上がみられた. 特に, 「形あわせ」「形さがし」「形づくり」で評価点2点以上の向上がみられ, 図地判別機能を含む幅広い視覚情報処理機能の向上が確認された. 一方で「形うつし」は点数に変化は無かったが, 取り組む速度が速くなり, 課題に対して拒否なく取り組んでいた. 保護者から, 「漢字の宿題の取り組みが良くなった」「分からない漢字を先生に聞くなど漢字を使うことが増えた」と報告があった. 【考察】最終評価より, 視覚情報処理機能の向上とともに, 学習場面における取り組み方, 漢字の使用頻度が高まる様子が確認された. 向上した背景として, カラー粘土を用いて漢字の細部にまで意識を向ける直接的アプローチやカラーマスノートを用いた環境設定の両面から介入することで, 効果が確認できたと考える. また, PCの漢字検索機能を使うなど, 本児が学習へ取り組みやすい配慮を行ったことも実践する上では重要であると考える.