第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-4] ポスター:発達障害 4

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-4-5] 自閉スペクトラム症児における同時模倣時の模倣の順序に関する検討

大歳 太郎1,4, 倉澤 茂樹2, 中井 靖3, 大歳 美和4 (1.関西医療大学 作業療法学科, 2.福島医科大学 作業療法学科, 3.京都女子大学 心理学科, 4.児童デイサービスたくみ)

【はじめに】自閉スペクトラム症児(ASD)は,模倣の出現が遅いことや模倣しているが部位の一部分のみであるなど,全体の捉えにくさが指摘されている(Sato et al, 2012).ASD児の模倣に関しては,表情模倣に関する報告は散見されるが,2つ同時に模倣する際における模倣の順序に関する報告はない.そこで本研究の目的は,2つの刺激が同時に呈示された際,どの順序で模倣するかについて検討した.
【方法】対象は,児童発達支援事業所に通所する学齢児11名(男児6名,女児5名)であり,知能指数70以上とした.診断名はASD児7名,ASDの診断はついていないが特徴を有する児が4名(月齢幅77-146ヶ月,平均月齢105.1±20.5ヶ月)であった.対照群として,大学生21名(男性9名,女性12名)とした.実験方法について,23.8インチのモニターTobii Proスペクトラム(Tobii Technology)を用い,手の形と表情2種類の絵を同時にモニターに呈示し,被検者は呈示された絵を同時に模倣する内容である.呈示課題は,手の形の絵3種類(グー,チョキ,パー:約8㎝)の中から1つ,表情の絵3種類(笑った顔,怒った顔,泣いた顔:約8㎝)の中から1つをそれぞれ選択した.これらのモニターへの配置について,例えば手の形がモニター上部,表情がモニター下部のパターンで配置する場合を上下の配置とし,左右,左斜め,右斜めについても各3課題作成し,4配置×3課題の計12課題を実験課題とした.被検者はモニター前方60 cm離れた椅子に座り,休憩10秒(モニター中央に表示されている点を見つめる)をはさみ,2種類の呈示課題12課題について,配置順序を変え7秒間ずつ順に呈示した.教示は,モニターと同じ手の形と表情を同時に模倣するように伝えた.模倣の測定は,手の形と表情のどちらから先に模倣するか,または同時に模倣するかの3パターンについて,被検者の視界に入らない左斜め前方からデジタルビデオカメラで計測し,実験終了後,模倣の順序をそれぞれ数えた.分析方法について,ASD児群と大学生群における,①手の形から先に模倣した回数,②表情から先に模倣した回数,③同時に模倣した回数,の差について,カイ二乗検定を用いて比較した.有意差を認めた場合,どの模倣パターンに差があったのかに関する分析には残差分析を用いた.解析には,SPSS version28.0(IBM社)を使用し,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は筆者の所属大学の研究倫理委員会の承認を受けた後実施した.
【結果】ASD児群と大学生群における3パターンの模倣の順序は,ASD児群では,手の形から先に模倣した回数が55回,表情から先に模倣した回数が53回,手の形と表情を同時に模倣した回数が24回,であった.大学生群では,手の形から先に模倣した回数が162回,表情から先に模倣した回数が39回,手の形と表情を同時に模倣した回数が51回,であった.ASD児群と大学生群における3パターンの模倣の順序を比較した結果,全体に有意差を認めた(p<0.000).ASD児群では,大学生群と比べて手の形から模倣する群が有意に少なく(p<0.000),表情から模倣する群が有意に多かった(p<0.000).
【考察】2種類同時の模倣の順序について,ASD児群では大学生群と比べて,手の形から模倣する群が有意に少なく,表情から模倣する群が有意に多かった.この結果から,ASD児と大学生の同時模倣の特徴が異なることが明らかとなった.しかしながら,ASD児群は手の形から先に模倣した回数が55回,表情から先に模倣した回数が53回と回数に差がないため,年齢があがるにつれ,大学生と同じような手の形から先に模倣する順序となるのかについては,今後の検討課題である.本研究はJSPS科研費JP19K11380の助成を受けたものである.