[PI-5-6] CO-OPアプローチにより書字スキルの改善が得られた知的発達が未熟な年長児に対する外来作業療法
【序論】本邦の読み書きに困難を抱える児童生徒の割合は3.5%と報告されている.読み書きの困難は学習上の問題に加えて,二次障害のリスクが指摘されており,適切な支援が求められている.書字スキルの習得について,近年,Cognitive Orientation to daily Occupational Performance(以下,CO-OP)の有効性が報告されているが,知的発達が未熟な対象児へCO-OPを実施する際の注意点は明らかでない.今回,知的発達が未熟な年長児へCO-OPを実施した結果,書字,COPMの改善が得られた.本報告の目的は,知的発達が未熟な幼児にCO-OPを実施する際の注意点を抽出することである.本報告は保護者の同意を得ている.
【事例】A君.幼稚園年長の男児.両親,兄姉の5人暮らし.発達に関する診断,福祉制度利用無し.当院での言語聴覚療法介入あり.田中ビネー式知能検査IQ71.不器用を主訴に外来OT開始となった.CO-OP導入前にJPAN感覚処理行為機能検査(以下,JPAN)を実施した.
【評価】子供の希望を目標とする重要性を説明の上,A君に上達したいことを尋ねた.A君からは具体的な活動は挙がらなかった.母親からの書字の話を受け,A君は「(書字を)上手になりたいの」と述べた.母親より,平仮名のなぞり書きはできるが書き順はめちゃくちゃ,力んでいて書き辛そう,模写は難しい,丸は書けるが四角や三角は書けない,との話が聞かれた.PQRSで平仮名の名前のなぞり書きを評定した.線上をなぞるが書き順や運筆方向は不定であった.それらの原因を書字のルールを知らないこと,と推定した.鉛筆操作は手掌握りで,握り込みが強く,運筆に時間を要した.良い力加減で平仮名の名前のなぞり書きができること(COPM重要度10)を目標とする形でA君の合意が得られた.書字のルール理解は練習を通して促すこととした.
【経過】週1回,1回40分の個別OTで平仮名の名前のなぞり書き,模写を15回実施した.
なぞり書き:1文字づつの見本では認知戦略の立案は得られなかった.1画づつ色を分けると,書き順や運筆方向のルールの理解が得られた.書く前に見本を見ると上手に書ける(認知戦略)ことを反復確認すると,自ら誤りに気付き,修正する様子が見られた.
模写:字形の崩れに対し,見本との違いを問われると金切り声を上げた.内容の返答は得られなかった.見本と違う箇所を限定し,閉じた質問で問うと,字形の修正が得られた.修正が頻回に得られる様になってきた頃より,日常的に自宅で書字練習を行うようになった.
【結果】書き順や運筆方向の理解が得られた.静的三指操作にて平仮名50音の模写,想起での記名,「ち,る,を」以外の平仮名の想起での書字が可能となった.介入前後で,記名時間は90秒→27秒,COPMは遂行度・満足度共5→9,PQRSは4→9,JPANのけがして大変は17-25%タイル→26-50%タイル,仲良くおひっこしは0-5%タイル→6-16%タイルとなった.
【考察】
幼児へCO-OPを実施する際の注意点として,介入内容に変化をつけ,時間を短くし,反復回数を増やすことの重要性が示されている.本事例では,情報を限定し,ひとつづつ視覚的に提示したこと,児に問い,考える機会を頻回に設けたことがスキル習得の一助となったと考える.これらはCO-OPの特徴であるガイドされた発見や,可能化の原理の視覚プロンプトに含まれる要素であると考えられる.上記より,知的発達が未熟な幼児へCO-OPを実施する際の注意点として,ガイドされた発見や可能化の原理の活用が重要である可能性が示唆された.
【事例】A君.幼稚園年長の男児.両親,兄姉の5人暮らし.発達に関する診断,福祉制度利用無し.当院での言語聴覚療法介入あり.田中ビネー式知能検査IQ71.不器用を主訴に外来OT開始となった.CO-OP導入前にJPAN感覚処理行為機能検査(以下,JPAN)を実施した.
【評価】子供の希望を目標とする重要性を説明の上,A君に上達したいことを尋ねた.A君からは具体的な活動は挙がらなかった.母親からの書字の話を受け,A君は「(書字を)上手になりたいの」と述べた.母親より,平仮名のなぞり書きはできるが書き順はめちゃくちゃ,力んでいて書き辛そう,模写は難しい,丸は書けるが四角や三角は書けない,との話が聞かれた.PQRSで平仮名の名前のなぞり書きを評定した.線上をなぞるが書き順や運筆方向は不定であった.それらの原因を書字のルールを知らないこと,と推定した.鉛筆操作は手掌握りで,握り込みが強く,運筆に時間を要した.良い力加減で平仮名の名前のなぞり書きができること(COPM重要度10)を目標とする形でA君の合意が得られた.書字のルール理解は練習を通して促すこととした.
【経過】週1回,1回40分の個別OTで平仮名の名前のなぞり書き,模写を15回実施した.
なぞり書き:1文字づつの見本では認知戦略の立案は得られなかった.1画づつ色を分けると,書き順や運筆方向のルールの理解が得られた.書く前に見本を見ると上手に書ける(認知戦略)ことを反復確認すると,自ら誤りに気付き,修正する様子が見られた.
模写:字形の崩れに対し,見本との違いを問われると金切り声を上げた.内容の返答は得られなかった.見本と違う箇所を限定し,閉じた質問で問うと,字形の修正が得られた.修正が頻回に得られる様になってきた頃より,日常的に自宅で書字練習を行うようになった.
【結果】書き順や運筆方向の理解が得られた.静的三指操作にて平仮名50音の模写,想起での記名,「ち,る,を」以外の平仮名の想起での書字が可能となった.介入前後で,記名時間は90秒→27秒,COPMは遂行度・満足度共5→9,PQRSは4→9,JPANのけがして大変は17-25%タイル→26-50%タイル,仲良くおひっこしは0-5%タイル→6-16%タイルとなった.
【考察】
幼児へCO-OPを実施する際の注意点として,介入内容に変化をつけ,時間を短くし,反復回数を増やすことの重要性が示されている.本事例では,情報を限定し,ひとつづつ視覚的に提示したこと,児に問い,考える機会を頻回に設けたことがスキル習得の一助となったと考える.これらはCO-OPの特徴であるガイドされた発見や,可能化の原理の視覚プロンプトに含まれる要素であると考えられる.上記より,知的発達が未熟な幼児へCO-OPを実施する際の注意点として,ガイドされた発見や可能化の原理の活用が重要である可能性が示唆された.