第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-8] ポスター:発達障害 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-8-8] 自閉スペクトラム症の不登校児童に対する訪問作業療法の有効性

暴力行為の軽減とADLの改善により,登校を再開した事例

田部井 健人1,2,3, 尾中 準志1,2, 足利 学2 (1.YOU医療保健福祉研究所 訪問看護・リハビリテーションセンターYOU, 2.藍野大学短期大学部 メディカル・ヘルスイノベーション研究所, 3.子どもの笑顔企画室Leaf)

【序論】本邦では通級による指導を受けている自閉症の児童生徒数は10年間で3倍に増加している(文部科学省,2022).さらに不登校の小,中学生の児童生徒数は29万人を越え,10年連続増加し,過去最多となった(文部科学省,2023).以上より,発達障害や不登校の児童数は増加していく事が示唆される.外出に抵抗がある発達障害児には通所よりも訪問での作業療法の方が導入されやすいと推測される.しかし訪問での作業療法の有効性の報告は稀有である.
【目的】今回,暴力行為の軽減と不登校の改善を目的に医師から依頼を受け,自閉スペクトラム症児に対し,訪問の作業療法を開始した.結果,暴力行為の軽減とADLの改善により登校を再開したため報告する.尚,本報告は本人と保護者に目的と方法を説明し,文書で同意を得ている.
【方法】症例は小学校高学年の男児である.診断名は自閉スペクトラム症,軽度知的障害(IQ52),反抗挑戦性障害である.立方体模写では4本の線を書いて終了した.アナログ時計から時間を確認する事が困難であった. FIMは108点(排尿管理3,社会的交流4)であった.食事は最後まで座る事が困難であった.入浴は洗い残しがあるため親が手伝っていた.排泄は間に合わないためオムツを使用していた.暴力行為は会話中に相手へ意図が伝わらず物を投げる等があった.日中は学校へ行かず,人と話す事や外出を嫌がり,動画を見て過ごすため,生活リズムは乱れていた.
 作業療法士は自宅内で声かけや遊びを実施した.開始時は動画を見る事が多かったが,徐々に作業療法士が提案する遊びや机上課題を行う時間が増加した.関わりの中で不登校の理由を話す場面もあった.自宅内の遊びでは物足りなくなり,近くの公園から段階付けて外出の幅を広げた.大きな公園や人通りが多い場所は,友達と遭遇した場合のコミュニケーション方法を考えてから外出した.ルールの理解が困難であったり,守れなかったりする場面があったので,確認を行いながら実施した.
【結果】開始9ヶ月後,立方体模写では11本の線を使い,細部は不十分ではあるが模写が可能となった.アナログ時計の読み取りが可能となった.FIMは118点(排尿管理7,社会的交流6)となった.遊びや生活のルールも守れるようになり,食事は座って食べ終わる事が可能となった.入浴は自立した.排泄は遊びを中断して間に合う事が可能となり自立した.物を投げる事は消失し,暴力行為は軽減した.学校への登校は訪問3ヶ月後から徐々に出席が増加し,9ヶ月後には欠席は目立たなくなった.友達の話題も増え,生活リズムの乱れはなくなった.
【考察】暴力行為の軽減とADLの改善により,登校を再開した.暴力行為は,コミュニケーション能力の乏しさとストレス発散の機会が減少していた事により,出現していた.二次的に会話を拒否し,動画を見て過ごしていた.作業療法を通して人との交流が楽しい事や,ルールが重要な事を経験した.さらに友達とのコミュニケーション方法を一緒に考えた事で外出の幅が広がった.それらがストレスの発散にもつながり,暴力行為が軽減したと考えられる.ADLは,ルールの重要性の把握に加え,机上課題の反復と時計の理解により改善した.その結果,症例自身が学校でも座って授業を受けられる事や,排泄が一人で出来る事を自覚した.
 現在,発達障害や不登校の児童は増加している.そのため今後,発達障害児への作業療法の支援が増加すると推測される.本症例のように外出に抵抗がある児童に対しては,訪問での作業療法が導入されやすく,学会等で症例数を増やしていく必要がある.