第58回日本作業療法学会

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ポスター

高齢期

[PJ-5] ポスター:高齢期 5

Sat. Nov 9, 2024 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PJ-5-3] 余暇作業を通して不安が減少し行動変容へ至った事例

坂本 勇太 (公益社団法人函館市医師会 函館市医師会病院)

【はじめに】腰椎圧迫骨折, 深部静脈血栓症を呈し, 歩行や自宅退院に対し不安が強い高齢女性を担当した. 人間作業モデル(以下, MOHO)を用いて園芸やオセロといった余暇作業を導入したことで不安が減少し, 行動変容へ至ることができたため報告する.
【倫理的配慮】本事例に対し, 本人に事例報告の趣旨を説明し, 書面にて同意を得た.
【事例紹介】A氏, 80歳代の女性. 独居であり, 家事全般を行う主婦としての役割を担っていた. 趣味は園芸や外出であり, 買い物は自転車や近所に住む妹の車で行くことが日課であった. X年Y月Z日に自転車で買い物へ行く途中, 左下肢の怠さあり転倒し, 腰椎圧迫骨折を受傷. 通行人の通報により当院へ入院し, Z+2日にPT, OTの介入を開始した.
【作業療法評価】FIMは78/126点(運動:49点, 認知:29点)であり, 腰痛はNRS 7であった. 左下肢に血栓や浮腫が生じており, 深部静脈血栓症と診断され抗凝固薬での治療を開始した. 歩行では独歩可能レベルであったが不安感強く, PT場面にて平行棒内や歩行器のみで歩行していた. MOHOSTでは68/96点であり, 自身の能力を過小評価し作業への動機付けが制限されていた. ADOCでは①歩いて買い物へ行く(満足度2), ②自宅で園芸をする(満足度5)を作業ニードに挙げ, 買い物や園芸などの日課に価値を置いていた, そのため, 受傷により主婦としての作業同一性が揺らぎ, 不安や腰痛が強く作業遂行が困難となり作業有能性が低下していた. 介入を開始した際, 他患が将棋を行っている姿を見ると, 「オセロはないの?」と問いかける場面が見られたため, オセロを導入すると笑顔を浮かべてOTRとの対局を楽しんだ.
【介入の基本方針】A氏の不安を減少し, A氏が望む作業への参加を強化するためMOHOの治療計画である「妥当にする」, 「明らかにする」, 「フィードバックを与える」を実施することとした. 介入プログラムとしては, A氏が好きな園芸やオセロといった余暇作業の提供, 炊事や掃除などの家事動作練習を導入した.
【経過および結果】介入1〜3週目に余暇作業を提供すると興味を示し, 余暇作業を行うことが習慣となった. また, 余暇作業を行う際に独歩を促すと, 短距離での独歩が可能となり, フィードバックを与えながら支持的に関わることで徐々に歩行距離が拡大した. 介入4~7週目では介入に意欲的となり, 「次々とやりましょう」と前向きな語りが聞かれた. 退院後の生活について尋ねると, 「今は不安ないです. 皆さんのおかげです」と涙を流して喜ぶ姿が見られた. 再評価時は, FIM 84/126点(運動:55点, 認知:29点), 腰痛はNRS 2となり, 左下肢の浮腫は減少した. MOHOSTでは84/96点となり, 自己認識が向上したことで独歩や家事動作を行えるようになった. ADOCでは①は満足度5, ②は満足度4となり, 「買い物は妹と行きます. 骨が治ればもう大丈夫」との語りが聞かれたことから作業有能性の向上が推察され, 買い物や園芸を日課として行う主婦としての作業同一性が再獲得された. 退院時は息子夫婦が自宅へ滞在することとなり, 介入8週目に自宅退院となる.
【考察】Kielhofnerは作業従事での満足は肯定的な感情的経験をもたらし, 興味は恐怖よりも効果的な動機付けになり得ると述べており, A氏の興味を早期に探索, 習慣化できたことで効果的な動機付けが得られたと考える. また, Kielhofnerはクライエントの変化は作業従事によって引き起こされ, 自己意識, 同一性の発達と決定に寄与する情動, 感情の創発に関係していると述べており, A氏に興味のある余暇作業を提供し, 従事することで不安の減少を促し, 独歩や家事動作への行動変容に至ったと考える.