第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-9] ポスター:高齢期 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-9-2] 目標が曖昧な入所者と家族・多職種に対してGASを共有したチームアプローチ

在宅復帰へ繋がった事例

阿部 滉平1, 三井 貴子1, 鈴木 達也2 (1.医療法人社団 白梅会 白梅ケアホーム, 2.聖隷クリストファー大学)

【はじめに】
 今回,在宅復帰を目指すCLに目標の曖昧さが生じた.そのためGAS(Goal Attainment Scale)を使用し,具体的で段階的な目標共有をCL・他職種・家族に対し実施した.結果,ADL能力が向上し在宅復帰に繋がった.また,目標共有により他職種からの積極的な意見の共有,家族の在宅介護への意識の変化がみられたため,家族・CLに同意を得て報告する.
【事例紹介】
 女性,80代前半,約30年前に腰部脊柱管狭窄症.関節リウマチ(現在も通院).今回,右第1・2趾中足骨骨折でA病院入院.手術を検討したが骨質が悪く保存療法を選択.自宅退院は困難であり本施設に70病日後入所した.
【作業療法評価】(70病日)
 BI 30/100,基本動作:寝返り:自立,起き上がり・端座位:見守り,起立:中等度介助,立位保持:軽介助,移乗:軽介助,車椅子自走介助要した.ROM:肩屈曲外転左右90°,筋力(MMT):上肢3,下肢3〜2,握力:1.5kg/0kg.HDS-R :26点.
【介入経過】(80病日〜)
 介入時「歩行車は使いたくない,でもpickup歩行器はできるかも」と目標が曖昧だったため,COPMを実施.その結果,「トイレを自分でやりたい」 (重要10,遂行3,満足3),「歩きたい」(重要8,遂行1.満足1),「風呂に入りたい」(重要7,遂行8,満足3),この目標に対しGASを使用.例として「歩きたい」では,−2:車椅子でフロア内移動自立,−1:前腕支持型歩行器で10m以上遠位見守り歩行, 0:家の中で歩行器を使用し居室から居間まで見守り移動, 1:家の中で歩行器を使用し居室から居間まで移動,2:家の中を歩行器や横手摺を使い分けて移動,と設定.同様に他項目も設定.さらに,GASの目標をCLの居室にA3サイズで掲示し訓練毎に現段階を示した.多職種に対してはスタッフルームに掲示しGASの段階が変わる事に申し送った.また,家族に対し会議にて現状を示し目標を共有した.
【結果】
 最終評価では,COPM:「トイレを自分でやりたい」(遂行8,満足8),「歩きたい」(遂行8 ,満足8),「風呂に入りたい」(遂行度 8,満足8),平均スコアは遂行度4.0,満足度5.7と向上.また,GASは「トイレ」−2→0,「歩行」−2→2,「入浴」−2→0と増加,筋力(R/L):上肢4~3レベル・下肢4~3レベル,握力:2.5kg/2.5kg ,BI:70/100,基本動作:環境調整し自立.歩行:歩行車にて家屋内自立.また,GASを使用する事で,「今日も歩行車で歩く」などと介入時にCLから話されることも増え,自宅ではPトイレ自立,歩行車移動自立となった.職員からはOTに対し在宅の様子,現在の身体状況についての質問が増え,フロア内でCLの在宅生活に近い動作を練習できた.家族からは,GASの表を見て,スケジュール表,服薬カレンダー,サービス担当者の連絡先表などCLだけでなく,家族全員が状況把握できるように関わることができ入所から3ヶ月後に在宅復帰となった.
【考察】
 今回,CLのCOPMの遂行度・満足度において有意な変化量があった(Ohno K et al,2021).これはGASで2点以上の変化と,ADLの向上が見られた事が要因の一つと考える.さらに満足度の向上は,GASにより,CLにとって明確な目標設定を立てたからだと考える.また,今回GASを使用することで,家族・多職種・CLと目標を共有して,各職種が担うべき仕事が明瞭になることで(近藤,2007),在宅に向けて積極的な行動や言動があり,在宅復帰に結びついたと考えられる.