[PK-3-3] 記憶障害に対して,PQRST法を実施し記憶障害の改善と外的補助手段の活用に繋がった一症例
【はじめに】PQRST法とは,Preview,Question,Read,State,Testからなる記憶障害の内的ストラテジーに対する介入法である.今回,若年の記憶障害事例を担当し復職を見据え,作業療法にてPQRST法を取り入れた訓練を実施したところ,記憶障害の改善と外的補助手段活用に繋がったため報告する.
【倫理的配慮】発表にあたり本人と家族に口頭で説明し,書面にて同意を得た.
【症例紹介】30歳代男性.都内名門大学を卒業後,他県で一人暮らし,SEとして勤務.自宅で倒れているところを同僚が発見.救急搬送され感染性心内膜炎,心原性ショックと診断を受ける.CT検査で多発性脳梗塞,腎梗塞,脾梗塞を認め,62病日に当院に転入院.入院時の身体所見はやせ型,右手指はICU-AWと思しき軽度運動麻痺を呈していた.
【初回評価(62病日~76病日)】MMSE:30/30点.Trail Making Test日本版(以下,TMT-J):A35秒,B:40秒.コース立方体組み合わせテスト:128/131点,IQ:119.3.標準言語性対連合学習検査(以下,S-PA):有関係9-10-10,無関係1-3-3.日本版リバーミード行動記憶検査(以下,RBMT):SPS10/24点,SS2/12点と記憶障害を認めた.記憶は意識した内容や,何かと関連付けしたことは比較的覚えられていたが,エピソード記憶では時系列や内容に変容が生じることがあった.会話上はやや楽観的な印象で,記憶障害への自己認識は不十分であった.言語療法で実施した標準失語症検査(SLTA)では失語症の徴候は見られなかった.
【経過(77病日~92病日)】基盤的認知能力向上と外的補助手段の活用を図り支援を行った.プリント課題では,深く考えずに答えてしまう様子があった.職場とのやり取りは家族が行い,本人に伝達していたが,内容を忘れることがあった.外的補助手段はスマートフォンとノートを活用し始めたが,必要性を感じておらず,自身の記憶に頼りメモしない情報が曖昧になっていた.
【経過(93病日~167病日)】入院から約1カ月後,コース立方体組み合わせテスト:131/131点,IQ:124.5.S-PA:有関係9-10-10,無関係1-4-4.RBMT:SPS10/24点,SS3/12点.遂行機能障害症候群の行動評価日本版(BADS):23/24点.記憶障害は変わらず残存していた.残存している記憶機能を活用し,PQRST法を導入した.即答できない場合は,誤りなし学習として,作業療法士(以下,OTR)が即座にヒントを与えて実施した.導入当初は文章の把持は半分程度であったが,101病日後には,自ら家族との会話にノートを使用するようになっていた.展望記憶に対しては,スマートフォンを使ったto doの遂行練習を実施した.131病日後には,S-PA:有関係8-10-10,無関係1-3-5となった.その頃,本人から提案があり,スケジュール管理の外的補助手段として,Out lookを活用することになった.これは,to doを一見して把握しやすいとの理由であった.150病日に,日本版生活健忘チェックリストを実施すると,本人とOTR間で記憶障害への認識がほとんど一致する状態にあった.忘れやすい状況,内容への理解が深まり,予め対処できるようになってきたと語った.
【最終評価(168病日~174病日)】TMT-J:A35秒,B51秒.S-PA:有関係8-10-10,無関係3-8-8.RBMT:SPS19/24点,SS9/12点.記憶障害は軽度に残存したが入院時より大きく改善した.入院生活においては,ノート,スマートフォン内のOut lookを使用し記憶の欠損を補うことが出来るようになった.
【考察】PQRST法は,記憶低下に対して体験的気づきを深めるきっかけとなり外的補助手段の活用に繋がる一助になったと考える.またPQRST法にて,注意を払い意識して記憶するといった,情報処理の水準を深める治療的介入が本症例の記憶障害に対して有効であったと考える.
【倫理的配慮】発表にあたり本人と家族に口頭で説明し,書面にて同意を得た.
【症例紹介】30歳代男性.都内名門大学を卒業後,他県で一人暮らし,SEとして勤務.自宅で倒れているところを同僚が発見.救急搬送され感染性心内膜炎,心原性ショックと診断を受ける.CT検査で多発性脳梗塞,腎梗塞,脾梗塞を認め,62病日に当院に転入院.入院時の身体所見はやせ型,右手指はICU-AWと思しき軽度運動麻痺を呈していた.
【初回評価(62病日~76病日)】MMSE:30/30点.Trail Making Test日本版(以下,TMT-J):A35秒,B:40秒.コース立方体組み合わせテスト:128/131点,IQ:119.3.標準言語性対連合学習検査(以下,S-PA):有関係9-10-10,無関係1-3-3.日本版リバーミード行動記憶検査(以下,RBMT):SPS10/24点,SS2/12点と記憶障害を認めた.記憶は意識した内容や,何かと関連付けしたことは比較的覚えられていたが,エピソード記憶では時系列や内容に変容が生じることがあった.会話上はやや楽観的な印象で,記憶障害への自己認識は不十分であった.言語療法で実施した標準失語症検査(SLTA)では失語症の徴候は見られなかった.
【経過(77病日~92病日)】基盤的認知能力向上と外的補助手段の活用を図り支援を行った.プリント課題では,深く考えずに答えてしまう様子があった.職場とのやり取りは家族が行い,本人に伝達していたが,内容を忘れることがあった.外的補助手段はスマートフォンとノートを活用し始めたが,必要性を感じておらず,自身の記憶に頼りメモしない情報が曖昧になっていた.
【経過(93病日~167病日)】入院から約1カ月後,コース立方体組み合わせテスト:131/131点,IQ:124.5.S-PA:有関係9-10-10,無関係1-4-4.RBMT:SPS10/24点,SS3/12点.遂行機能障害症候群の行動評価日本版(BADS):23/24点.記憶障害は変わらず残存していた.残存している記憶機能を活用し,PQRST法を導入した.即答できない場合は,誤りなし学習として,作業療法士(以下,OTR)が即座にヒントを与えて実施した.導入当初は文章の把持は半分程度であったが,101病日後には,自ら家族との会話にノートを使用するようになっていた.展望記憶に対しては,スマートフォンを使ったto doの遂行練習を実施した.131病日後には,S-PA:有関係8-10-10,無関係1-3-5となった.その頃,本人から提案があり,スケジュール管理の外的補助手段として,Out lookを活用することになった.これは,to doを一見して把握しやすいとの理由であった.150病日に,日本版生活健忘チェックリストを実施すると,本人とOTR間で記憶障害への認識がほとんど一致する状態にあった.忘れやすい状況,内容への理解が深まり,予め対処できるようになってきたと語った.
【最終評価(168病日~174病日)】TMT-J:A35秒,B51秒.S-PA:有関係8-10-10,無関係3-8-8.RBMT:SPS19/24点,SS9/12点.記憶障害は軽度に残存したが入院時より大きく改善した.入院生活においては,ノート,スマートフォン内のOut lookを使用し記憶の欠損を補うことが出来るようになった.
【考察】PQRST法は,記憶低下に対して体験的気づきを深めるきっかけとなり外的補助手段の活用に繋がる一助になったと考える.またPQRST法にて,注意を払い意識して記憶するといった,情報処理の水準を深める治療的介入が本症例の記憶障害に対して有効であったと考える.