第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)4

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-4-4] IoT技術によるフィードフォワード運動制御の評価と高齢者の認知機能低下の関連

米田 貢, 菊池 ゆひ (金沢大学 医薬保健研究域保健学系)

【はじめに】加齢による人の認知機能低下は,理解,判断,記憶,言語理解などにおいて認められるようになる.これら認知機能は神経心理学的検査により評価されるが,機能低下のリスクを発見することは今のところ難しい.加齢による認知機能低下は認知症の予防と治療法の開発の観点から世界規模の課題であり,我が国の認知症施策においては情報通信技術を用いた認知機能低下あるいはリスクの超早期発見法の開発が認知症の「共生」と「予防」を推進するために必要とされている(認知症施策推進大綱2019年).我々は認知症の病状の経過中に拙劣な動作を認め,予測が下手な患者がいることに着目した.予測を用いた運動制御は運動学習のモデルのうち大脳皮質−小脳−視床−大脳皮質(小脳系)の回路が担っている.この回路は自己の感覚情報を用いたフィードフォワード運動制御卯として知られている.我々はスマートフォンに内蔵された加速度センサーを利用して手の動きの速度の変化率を捉え認知機能を測定する方法を開発した.本研究では高齢者を対象にIoT技術を用いMMSEで測定された認知機能スコアを教師データとして課題時の加速度波形成分の機械学習解析から,認知機能低下の予測モデルを検討した.
【方法】1)対象:地域に居住している55歳以上地域在住者82名(平均年齢72.2±8.0歳)とした.本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:989).2)運動制御課題:フィードフォワード運動制御機能を評価のために,卓上に設置した重り(300g)を利き手で持ち取りあげ,非利き手の手掌に載せる,そして重りを取り去り机に置く動作を行わせた.この動作を10回繰り返した.この時の非利き手の運動制御を測定するためのIoT技術として,手掌にはスマートフォンを載せ,内臓の加速度センサーで垂直方向の加速度を計測した.重りを含めて400g程度の荷重が手掌に加わることになる.指標として①重り接触前の予測制御(先行反応)の振幅,時間幅とそれらの分散値,②重り接触時の振幅,時間幅とそれらの分散値,③重り接触後に手の動揺が安定するまでの振幅,時間幅とそれらの分散値を用いた.3)認知機能:Mini Mental State Examination(MMSE)を実施した.4)分析:MMSEスコアの予測モデルを運動制御による認知機能課題の指標を用いて機械学習(XGBoost: eXtreme Gradient Boosting /勾配ブースティング回帰木)で検討した.
【結果】高齢者51名のMMSEスコアによる予測モデルは,accuracyが94%の正解率であった.さらに,高齢者31名の交差検証の結果は,accuracyが83%の正解率であった.
【考察】加速度センサーによるフィードフォワード制御評価から認知機能の評価が有用であることが示された.このIoT技術を用いた認知機能を動きから紐解く評価法は,これまでほとんど着目されていなかった認知症の発症と小脳の関係を示唆するものであり,新しい評価の着眼点から認知症の病態解明への貢献が期待できる.今後,よりIoT技術を応用した機能評価,生活能力の関連を明らかにすることで作業療法の発展が期待される.