第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-5] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)5

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-5-5] 重度高次脳機能障害を呈したが,ご家族の理解を得て復職が可能となった一例

衣笠 純一, 永井 信洋, 住岡 莉花, 錦見 俊雄 (社会医療法人若弘会 わかくさ竜間リハビリテーション病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
 先行研究において重度高次脳機能障害者の社会復帰には,周囲の援助者の理解が必要不可欠との報告がある.今回,回復期リハビリテーション病棟(以下回リハ病棟)にて,夫婦で飲食料理店を営んでいたが,クモ膜下出血にて重度高次脳機能障害を呈した60歳代女性を担当した.ご家族は現職への復帰を希望されており,症例は就労意欲が高かったが業務能力と病状理解は乏しい状態であった.症例の業務能力評価と業務内容の選定,ご家族の症例に対する対応の理解を促すことで,現職復帰が可能となったため以下に報告する.報告に際して,症例,ご家族の同意は得ている.
【症例紹介】
 60歳代女性.夫と飲食料理店を経営しており,開店準備,閉店作業,接客,予約対応,料理の配膳,会計処理に携わっていた.今回クモ膜下出血の診断にて開頭クリッピング術施行.術後経過中に続発性の水頭症に対しVPシャント術施行.状態安定し第78病日当院回リハ病棟へ転入院.入院時,神経学的所見は認めないものの,注意や記憶障害,脱抑制などを顕著に認めADL全介助だった.第100病日目にはFIM:70/126(運動57/認知13)点と病棟生活は獲得され,症例とご家族は復職を希望されていたが,注文の聞き取りやハンディターミナル操作,予約内容の聞き取り等,注意力と記憶力や処理能力が必要な業務であり,病前同様の業務遂行は困難な状態と考えられた.また,ご家族は「歩けているから大丈夫」と症例の状態への理解は不十分であった.
【作業療法評価】(100病日目)
 MMSE:15/30点,CBA:11/30(意識4,感情2,注意2,記憶1,判断1,病識1)点,TMT-A:188秒B:実施不可,RCPM:18点と注意と記銘力障害を認め,指示内容の正確な聞き取りや復数の情報を正しく処理することは困難だった.しかし,病前同様に携帯操作や調理等は行うことができ,病前の業務内容を説明することは可能だった.また,反復する事でエピソードとして記憶は可能だった.
【経過】(108病日~180病日)
 本症例に対し業務能力向上を目的に,接客,料理の配膳,給料計算を模擬環境にて実施した.その後,病前よく訪れていたスーパーへの外出訓練を計画した.目的地までの経路は把握していたが,衝動買いが目立ち計画した時間に終えることが出来なかった.また,職場での業務体験では,業務手順の説明やハンディターミナル操作等の単一の動作は可能だったが,活況な環境では混乱が目立ち特に操作手順の多いレジ操作は困難だった.ご家族へは上記の介入経過に同行して頂いた.スーパーでの症例の行動を見て,買い物を一緒に行く必要性を理解され,職場での業務体験からは,業務内容の選定と対応の工夫など具体的に検討をすすめる事となった.
【結果】
 MMSE:19/30点,CBA:17/30(意識5,感情4,注意3,記憶1,判断2,病識2)点,TMT-A:83秒B:209秒,RCPM:23点と注意機能と記銘力の改善を認めた(FIM:105/126(運動84/認知21)点).退院後は夫婦で買い物に行かれ,症例に応じた業務内容での現職復帰をはたし,入院時の自身の様子を客観視するなど言動に大きな変化を認めている.
【考察】
 本症例の様に重度高次脳機能障害者の社会復帰には援助者の理解が必要であり,ご家族同行の下で外出訓練と職場への業務体験を行い,症例の業務能力評価を行うことが支援者の理解として重要であった.また,永田らは「就労支援はその人らしい働き方や生活を見つけていくことが重要」と述べている.症例とご家族の希望に合わせて,症例の業務能力向上とご家族の対応の理解を促し,業務内容のマッチングを図れた事が,症例の飲食料理店復帰に有効であったと考える.