第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-8-2] 在宅認知症患者に対するグルテンフリーの食事指導の効果

意味のある生活行為の拡大へ

日下 真理子1, 森口 智恵美2 (1.訪問看護ステーション ルーム, 2.徳島医療福祉専門学校)

【はじめに】内閣府の報告によると,要介護者等の介護が必要になった主な原因は認知症が最も多い.また,近年認知症と脳腸相関に関する報告が示唆されており,グルテンフリーの食事指導に焦点を当てて週2回の訪問作業療法で関わった結果,認知機能及び症状の改善が認められたため報告する.尚,本人と家族へ口頭及び書面での同意を得た.
【事例】細身の80代女性,認知症.要介護2.長男と娘家族と同居.自宅は2階にあり1階の工場で子供達が家業を継いでいる.多忙のため家族の協力は得られにくく,食事の準備のみ家族の支援あり.朝は10時過ぎに起床.1日2食で毎朝はパン.水分摂取量は1日300ml程度(珈琲を含む).時々お菓子を食べる.服薬管理は事例自身が行うも殆ど服薬できていない.時折行う洗濯動作で腰痛出現.その他,日中は珈琲を飲みに1階の工場へ行く事,煙草を吸う時間以外は自室で寝て過ごす.「面倒くさい」が口癖.ふらつきを認め転倒する事もある.リハビリパンツを使用するがパット内に尿失禁するも自己認識しておらず常に尿臭がする.
【評価】MMSE:21点.FAB:10点.FIM:106点.DASC-21:56点.認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲa.NRS:6.ADLは排尿管理と問題解決,記憶以外はほぼ自立.服薬4種類(降圧剤2種).
【方法と経過】第1期(当初~8か月):腰痛に対して筋緊張を調整し腰痛解消と,バランス訓練を行う事で転倒予防を図る.活動量と持久力向上のため屋外歩行訓練を実施.自主課題として①カレンダーへ日付チェック②服薬③水分摂取を明記した用紙を掲示し指導する.腰痛は改善し転倒頻度が減少,家事動作は増加.指輪やネックレスをつけ見た目を気にするようになる.しかし介入8か月後,定期的に服薬できる日が増えた事により血圧が下がり状態悪化.
第2期(9~10か月):仕事が忙しいため服薬管理においても当初から家族の協力は得られず家族指導に踏み切れていなかった.しかし,状態悪化に伴い家族へ服薬の見直しを提案すると協力が得られ,受診にて降圧剤1種類の減薬に至った.併せて食事指導の提案も快く受け入れられ,朝食をパンからおにぎりに変更することが可能になった.
【結果】MMSE:26点.FAB:12点.FIM:114点.DASC-21:50点.認知症高齢者自立度Ⅱb.NRS:0.第2期より起床時間が早くなり1日3食に増え,生活リズムが安定し始める.日付の見当識が改善し服薬管理も更にできるようになる.血圧は安定し疼痛は消失.ほぼ毎日家族の洗濯や洗い物を行い,掃除機を定期的にかけ布団を干すなど活動範囲が広がる.「出来るだけ家で元気に過ごしたい」「尿臭がしないようにしたい」「お隣の奥さんに負けないようにしたい」と前向きな発言も出るようになる.また,布パンツとパット小へ変更し,排尿管理がある程度できるようになり尿臭頻度も減少.
【考察】事例は服薬がほぼ出来ていない状態で血圧が安定しており,服薬が定期的に行えるようになった事で降圧剤が作用し血圧が下がったと考えられる.OT介入により徐々に症状の改善はみられたが,血圧低下や症状悪化が認められ大きな改善には至らなかった.グルテン,さらに言えば高炭水化物の食事が脳に達する炎症反応の原因になっていると報告されている(デイビッド,2015).減薬した事で血圧が安定し,朝食をパンからおにぎりに変えた事により,腸内環境と生活リズムが整った事をきっかけに,認知機能及び症状の改善から意味のある生活行為の拡大へ繋がったと考えられる.尿失禁が減少したことで今後予測される介護リスクの軽減には繋がったが,食事指導は早期から取り入れるべきであった.また,在宅における食事指導は家族の協力が必要不可欠である.