第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-8] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PK-8-4] 段階的集団参加により,不安軽減・刺激へ順応できた一事例

落ち着いた集団生活を送ることを目指して

山本 翔太, 寺尾 美孝, 望月 信吾, 高橋 一平 (医療法人社団リラ溝口病院)

【はじめに】
 今回,不安と昜刺激性の若年性認知症患者に対し,段階的に集団への適応を行った.結果,不安は軽減し,刺激へ順応でき,落ち着いて集団活動に参加できた為,以下に発表する.
【事例紹介】
 60代女性.X年に若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けた.その後,自宅療養していたが,X+5年に落ち着きなくなり,ショートステイを利用.施設内でも問題行動が続き,X+6年に当院医療保護入院となった.入院後は臥床していることが多く,集団の場や介助時に大声,興奮を見せた.2週間ほどで認知症治療病棟へ転棟.転棟後も興奮や粗暴は続き,集団生活に溶け込めていなかった.
【作業療法評価】
MMSE:実施困難.AQOA:21/84点.QUALID-J:55/55点.N-ADL:17/50点.NMスケール:7/50点
 小柄で常に眉間にしわを寄せていた.重度の認知機能障害で,状況理解できず不安が強い.刺激に過敏で不快を示す独語がみられた.簡単な声掛けに返答見せるが,指示理解は不良で疎通困難.独歩は維持.ADL全介助だが,状況つかめず激しく抵抗みせた.OT活動は創作やレクリエーションの実施は困難.DVD鑑賞に誘導するが数分で不快感を訴え,徘徊や大声見られた.
【介入の基本方針】
 落ち着いた精神状態で集団活動への参加を目的に,段階的に集団への適応を行った.
【作業療法実施計画】
 介入期間は3カ月.(1)初期は個室を利用し,好きな音楽を流しながらスタッフと場を共有する.(2)中期は集団後方席へ誘導し,付き添いで集団の場を過ごす.(3)後期は集団前席へ誘導.他患と共に活動に参加する.また全期間で定期的に病棟とカンファレンスも実施.
【経過】
(1)個室では落ち着いて音楽鑑賞していた.昔聴いていたバラードを流すと涙を浮かべた.手を握り,背中をさすると落ち着いた表情を見せた. 1週間経過するとポップスやロックに笑顔を見せるようになった.(2)精神科作業療法に参加.集団から距離をとり,付き添いで,音楽を聞いて過ごした.離席頻回だったが,日を追うごとに場に留まれる時間が伸び,40分程度は大声や離席なく過ごせるようになった.その後は集団最後列へ誘導.付き添いなしで他患と共にDVD鑑賞に参加された.(3)集団前列に誘導し,DVD鑑賞に参加.30分おきに離席見られるが,スタッフと5分程度散歩を行い,再度席へ誘導すると,活動終了まで場を共有できた.
【結果】
AQOA:32/84点.QUALID-J:37/55点.N-ADL:17/50点.NMスケール:9/50点
 落ち着いて集団の場を過ごせるようになり,音楽やレクリエーションに関心示すようになった.定期カンファレンスにより,スタッフの対応が統一化され,病棟生活も落ち着いて過ごせるようになり,施設へ退院となった.
【考察】
 本事例は疎通困難であったが,感情や意思を汲み取り,精神状態に合わせて柔軟に参加方法を変更したことで,刺激に順応でき,不安軽減に繋がった. また集団に適応できたことで,継続的にOT活動に参加し,生活リズムの安定,楽しみが増え,QOL向上に繋がったと考えた.