[PK-9-5] 回復期病棟から在宅復帰を目指したが到達できなかった左半側空間無視の一事例
【はじめに】脳卒中後の半側空間無視は13~82%出現するとされ,リハビリテーションの効果やADL向上の阻害因子ともされている.よって早期からの継続的な評価と介入は重要であるといえる.そのような中,今回,脳出血術後,亜急性期から回復期において左半側空間無視を主症状とした事例の作業療法を経験した.在宅復帰を目指して介入し心身機能やADLの改善は認めた.しかし最終的には在宅復帰まで至ることはできなかった.本報告の目的は,事例の心身機能や言動の経過から,高次脳機能障害と在宅復帰との関連について仮説形成することにある.本報告は,対象者の個人情報保護に十分配慮して行い報告に対する同意を得ている.
【事例】70代,右利き男性.自動車運転中に左へ何度もハンドルを切り接触事故し救急搬送.頭部CTにて右皮質下出血(頭頂葉~後頭葉)を認め開頭血腫除去術が施行された.術後翌日よりリハビリテーション開始し,その後合併症なく早期離床を進め16病日回復期病棟へ転床となった.入棟時FMA(上肢/下肢)41/24点,FIM(運動/認知)16/14点.左半側空間無視が著明であり声掛けにて正中より左側へ視線を向けることも出来なかった.MMSE20点,BIT通常検査12点であり,その他注意障害や構成障害なども疑われた.事例からは「仕事が出来ないこと以外は何も困っていないです」との発言もあった.
【経過と介入】発症~1か月,「見えていないという認識はない」という発言があった.能動的注意の向上を目的とした左視覚探索練習や頸部を正面に向けるよう促しながら歩行練習を行った.介入直後は「おかしい,ぶつかる」という発言もあったが翌日には同様の状態であった.1か月後再評価ではBIT通常検査34点,CBSは自己評価1点,他者評価22点であった.1~2か月,同様の介入を継続したが,介入前に課題の結果をイメージすること,結果を振り返る時間を設けることを追加した.すると「左を見落としました」という発言が出現し,歩行中に指さし確認をするなど自己認識の変容が見られた.しかし病棟内では左側の壁に接触することが多かった.2~3ヶ月,病棟での移動自立へ進め歩行と数唱などの二重課題を追加した.慣れた場所での移動は可能となったが,手がかりがないと物にぶつかる,他の病棟へ迷い込む場面も見られた.その後,在宅復帰に向け多職種カンファレンスも実施し家族への説明も進めた.ただし事例自身は「自宅でも問題なく生活できる」との発言があり周囲との差異が大きい状況であった.
【結果】111病日,FMA(上肢/下肢)66/30点,FIM(運動/認知)81/21点,MMSE20点,BIT通常検査75点まで改善した.CBSは自己評価1点,他者評価7点であった.自宅退院を強く希望されていたが日中独居となること,介護保険の利用も検討し要介護度4と判定されたが,家族の不安が大きかったことから介護老人保健施設にてリハビリテーションを継続することとなった.
【考察】半側空間無視に対し視覚探索練習から始め気づきを促した.その後フィードバック機会を持ち自己認識が高まるような介入を進めた.結果,半側空間無視の改善は認めたが在宅復帰までは至らなかった.家族の不安要素として,介助者がいないにも関わらず入院時から帰宅願望が強くその時の印象と変わらない,以前として現状認識の乏しさがあるとのことであった.本事例は自然回復の中で高次脳機能障害への介入は一定の成果があったかもしれない.しかし,在宅復帰の阻害因子とされる高次脳機能障害は,今回の事例経過から自己評価と他者評価のミスマッチが改善されなければより強い阻害因子となるかもしれないという仮説が推察された.
【事例】70代,右利き男性.自動車運転中に左へ何度もハンドルを切り接触事故し救急搬送.頭部CTにて右皮質下出血(頭頂葉~後頭葉)を認め開頭血腫除去術が施行された.術後翌日よりリハビリテーション開始し,その後合併症なく早期離床を進め16病日回復期病棟へ転床となった.入棟時FMA(上肢/下肢)41/24点,FIM(運動/認知)16/14点.左半側空間無視が著明であり声掛けにて正中より左側へ視線を向けることも出来なかった.MMSE20点,BIT通常検査12点であり,その他注意障害や構成障害なども疑われた.事例からは「仕事が出来ないこと以外は何も困っていないです」との発言もあった.
【経過と介入】発症~1か月,「見えていないという認識はない」という発言があった.能動的注意の向上を目的とした左視覚探索練習や頸部を正面に向けるよう促しながら歩行練習を行った.介入直後は「おかしい,ぶつかる」という発言もあったが翌日には同様の状態であった.1か月後再評価ではBIT通常検査34点,CBSは自己評価1点,他者評価22点であった.1~2か月,同様の介入を継続したが,介入前に課題の結果をイメージすること,結果を振り返る時間を設けることを追加した.すると「左を見落としました」という発言が出現し,歩行中に指さし確認をするなど自己認識の変容が見られた.しかし病棟内では左側の壁に接触することが多かった.2~3ヶ月,病棟での移動自立へ進め歩行と数唱などの二重課題を追加した.慣れた場所での移動は可能となったが,手がかりがないと物にぶつかる,他の病棟へ迷い込む場面も見られた.その後,在宅復帰に向け多職種カンファレンスも実施し家族への説明も進めた.ただし事例自身は「自宅でも問題なく生活できる」との発言があり周囲との差異が大きい状況であった.
【結果】111病日,FMA(上肢/下肢)66/30点,FIM(運動/認知)81/21点,MMSE20点,BIT通常検査75点まで改善した.CBSは自己評価1点,他者評価7点であった.自宅退院を強く希望されていたが日中独居となること,介護保険の利用も検討し要介護度4と判定されたが,家族の不安が大きかったことから介護老人保健施設にてリハビリテーションを継続することとなった.
【考察】半側空間無視に対し視覚探索練習から始め気づきを促した.その後フィードバック機会を持ち自己認識が高まるような介入を進めた.結果,半側空間無視の改善は認めたが在宅復帰までは至らなかった.家族の不安要素として,介助者がいないにも関わらず入院時から帰宅願望が強くその時の印象と変わらない,以前として現状認識の乏しさがあるとのことであった.本事例は自然回復の中で高次脳機能障害への介入は一定の成果があったかもしれない.しかし,在宅復帰の阻害因子とされる高次脳機能障害は,今回の事例経過から自己評価と他者評価のミスマッチが改善されなければより強い阻害因子となるかもしれないという仮説が推察された.