[PK-9-4] 脳卒中の左半側空間無視患者に対するプリズム順応療法の効果
左無視空間のタイプ分類との関連
【目的】
脳卒中後の左半側空間無視(以下,左無視)に対するプリズム眼鏡を用いたプリズム順応療法(Prism Adaptation therapy 以下,PAT)は脳卒中ガイドライン2021で推奨され,効果の汎化や持続性などの利点が報告されている.一方でPATの効果が期待できる症状特性は明らかになっていない.そこで今回,対象者の無視空間を評価し,無視のタイプを明らかにした上でPATを行い,左無視症状やADLへの効果を検証したので報告する.なお本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.
【対象と方法】
対象は2023年1月~2024年1月に当院へ入院し,リハビリテーションを実施した右大脳半球の脳卒中による左無視患者8名とした.病型は脳出血3名,脳梗塞5名,性別は男6名,女2名,平均年齢は58±16歳,発症から介入前検査までの期間は115±66日であった.除外基準は検査やPATの方法が理解できない程の認知機能障害がある者とし,HDS-Rの平均は26±3点であった.左無視の有無の判定はBIT通常検査の総点と下位項目,また遠位空間の二等分試験を用い,カットオフ値以下の患者を左無視有りとした.次に無視空間を近位空間,遠位空間,身体空間,物体中心の4つに分類し,対象者の無視のタイプ分類を行った.近位空間の指標はBITを, 遠位空間はリーチ範囲よりも遠い位置での線分二等分試験を,身体空間はFluff testを,物体中心の無視はOta testをそれぞれ用い,各検査の基準で陽性か否かを判断した.PATの実施方法は,視野が右方へ10プリズム,約5.7°偏倚するプリズム眼鏡を装着し,対象者は胸元から左右2つの指標へ交互にポインティングを80回繰り返す方法で実施し,通常のリハプログラムに併せて14日間継続した.効果判定はBITの他,ADLの指標としてCatherine Bergego Scale(CBS)の客観評価とFIMを用い,全ての検査はPAT介入開始前後の各7日間以内に行った.統計学的分析はWilcoxonの符号付き順位和検定を用い,PAT前後の各検査結果を危険率5%未満の有意確率で比較した.
【結果】
対象者の無視のタイプは多い順に近位空間と遠位空間と物体中心の合併が4名,近位空間のみが2名, 遠位空間のみが1名, 近位空間と遠位空間の合併が1名で, 物体中心のみの者と身体空間の無視はいなかった.各検査結果の中央値(25-75%タイル値)を介入前後の順に示すと,BIT総点(点)は108.5(60.0-139.8),115.0(61.5-138.8),BIT下位項目得点(点)の線分抹消は36.0(27.5-36.0),36.0(27.0-36.0),文字抹消は31.0(16.5-36.0),30.5(14.5-37.5),星印抹消は37.0(15.0-53.0),44.0(22.5-53.8),模写試験は0.5(0-2.0),0(0-3.3),線分二等分試験は4.0(0-7.8),4.5(0-8.5),描画試験は0(0-2.8),1.5(0.3-3.0)であった.遠位空間の二等分試験(点)は4.5(1.0-7.5),7.0(1.0-9.0),CBS(点)は8.0(4.3-15.5),5.0(1.3-9.8),FIM運動(点)は24.5(19.5-68.5),47.5(25.5-81.0),FIM認知(点)は22.0(17.0-32.5),27.0(19.8-33.0),FIM総点は46.5(36.5-100.0),75.0(45.3-113.3)であった.介入前後を比較した結果,有意差があった項目は,CBSとFIM運動,FIM認知,FIM総点であり,BIT総点と各下位項目得点に差はなかった.CBSは介入後が有意に低得点(P<0.05),FIMの各得点は有意に高得点で(P<0.05),CBS,FIMはどちらも改善した.
【考察】
PATの効果検証に関するこれまでの報告では指標が様々であり,またその効果がBITに必ずしも反映されるとは言えず,一致した見解は得られていない.本研究においてもPATの効果はBITに反映されなかったが,CBSやADL評価など行動面での改善が示された.以上の結果から近位空間と遠位空間の無視,またはそれらに物体中心の無視が合併する症例に対し,PATはCBSやFIMなど行動面の改善に有効である可能性が考えられた.
脳卒中後の左半側空間無視(以下,左無視)に対するプリズム眼鏡を用いたプリズム順応療法(Prism Adaptation therapy 以下,PAT)は脳卒中ガイドライン2021で推奨され,効果の汎化や持続性などの利点が報告されている.一方でPATの効果が期待できる症状特性は明らかになっていない.そこで今回,対象者の無視空間を評価し,無視のタイプを明らかにした上でPATを行い,左無視症状やADLへの効果を検証したので報告する.なお本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.
【対象と方法】
対象は2023年1月~2024年1月に当院へ入院し,リハビリテーションを実施した右大脳半球の脳卒中による左無視患者8名とした.病型は脳出血3名,脳梗塞5名,性別は男6名,女2名,平均年齢は58±16歳,発症から介入前検査までの期間は115±66日であった.除外基準は検査やPATの方法が理解できない程の認知機能障害がある者とし,HDS-Rの平均は26±3点であった.左無視の有無の判定はBIT通常検査の総点と下位項目,また遠位空間の二等分試験を用い,カットオフ値以下の患者を左無視有りとした.次に無視空間を近位空間,遠位空間,身体空間,物体中心の4つに分類し,対象者の無視のタイプ分類を行った.近位空間の指標はBITを, 遠位空間はリーチ範囲よりも遠い位置での線分二等分試験を,身体空間はFluff testを,物体中心の無視はOta testをそれぞれ用い,各検査の基準で陽性か否かを判断した.PATの実施方法は,視野が右方へ10プリズム,約5.7°偏倚するプリズム眼鏡を装着し,対象者は胸元から左右2つの指標へ交互にポインティングを80回繰り返す方法で実施し,通常のリハプログラムに併せて14日間継続した.効果判定はBITの他,ADLの指標としてCatherine Bergego Scale(CBS)の客観評価とFIMを用い,全ての検査はPAT介入開始前後の各7日間以内に行った.統計学的分析はWilcoxonの符号付き順位和検定を用い,PAT前後の各検査結果を危険率5%未満の有意確率で比較した.
【結果】
対象者の無視のタイプは多い順に近位空間と遠位空間と物体中心の合併が4名,近位空間のみが2名, 遠位空間のみが1名, 近位空間と遠位空間の合併が1名で, 物体中心のみの者と身体空間の無視はいなかった.各検査結果の中央値(25-75%タイル値)を介入前後の順に示すと,BIT総点(点)は108.5(60.0-139.8),115.0(61.5-138.8),BIT下位項目得点(点)の線分抹消は36.0(27.5-36.0),36.0(27.0-36.0),文字抹消は31.0(16.5-36.0),30.5(14.5-37.5),星印抹消は37.0(15.0-53.0),44.0(22.5-53.8),模写試験は0.5(0-2.0),0(0-3.3),線分二等分試験は4.0(0-7.8),4.5(0-8.5),描画試験は0(0-2.8),1.5(0.3-3.0)であった.遠位空間の二等分試験(点)は4.5(1.0-7.5),7.0(1.0-9.0),CBS(点)は8.0(4.3-15.5),5.0(1.3-9.8),FIM運動(点)は24.5(19.5-68.5),47.5(25.5-81.0),FIM認知(点)は22.0(17.0-32.5),27.0(19.8-33.0),FIM総点は46.5(36.5-100.0),75.0(45.3-113.3)であった.介入前後を比較した結果,有意差があった項目は,CBSとFIM運動,FIM認知,FIM総点であり,BIT総点と各下位項目得点に差はなかった.CBSは介入後が有意に低得点(P<0.05),FIMの各得点は有意に高得点で(P<0.05),CBS,FIMはどちらも改善した.
【考察】
PATの効果検証に関するこれまでの報告では指標が様々であり,またその効果がBITに必ずしも反映されるとは言えず,一致した見解は得られていない.本研究においてもPATの効果はBITに反映されなかったが,CBSやADL評価など行動面での改善が示された.以上の結果から近位空間と遠位空間の無視,またはそれらに物体中心の無視が合併する症例に対し,PATはCBSやFIMなど行動面の改善に有効である可能性が考えられた.