第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

援助機器

[PL-2] ポスター:援助機器 2 

Sat. Nov 9, 2024 4:30 PM - 5:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PL-2-3] 療養病棟に入院する頚髄損傷患者に対し満足度を意識した3Dプリンタを用いた共同製作の経験

平井 翔也, 宇都宮 裕人 (IMSグループ医療法人社団明芳会イムス横浜東戸塚総合リハビリテーション病院 リハビリテーション科)

【はじめに】3Dプリンタで作製した道具は最適な環境を整える手段として用いる事が可能と言われている(澤田有希/2020).今回,療養病棟で生活する症例に対し3Dプリンタを用いた自助具を共同製作した事で,満足度の高い自助具が提供できた為,報告する.尚,今回の発表に際してご本人,ご家族から同意を得ている.
【症例紹介】50歳代,男性,右利き.診断名,頚髄損傷. [現病歴]作業中に転落し受傷.同日,頸椎除圧固定術施行.意識清明も重度麻痺により基本動作・ADL全介助.発症日+4ヵ月に当院へ転入院.[生活歴]ADL/IADL自立.休日はインターネット動画を観て過ごしていた.[職歴]建築関係(現場監督).
【初期評価】[COM]日常会話可能.[ASIA]分類C,上肢運動スコア:右11,左4.[MMT(右/左)]三角筋4/2,上腕二頭筋4/2,橈側手根伸筋3/1,上腕三頭筋3/1,以降両側0.[Zancolli分類]C6BⅡ[ADL]jSCIM:10/100,FIM-m:13/91.
 本人より,スマホ操作中に「打ち間違えて時間が掛かる」,「手が痛くなる」と寝ている状態での操作に苦痛の発言が聞かれていた.ギャッチアップした際の操作では「やりやすい」との発言があった為,楽に操作できる姿勢の自己調整ができるようにベッドコントローラースイッチの導入を提案した.
【介入経過】Ⅲ期に分けて自助具作製の介入を実施した.
[第Ⅰ期]レバー式のスイッチを作製した時期:上肢機能は粗大運動による物品操作は可能だが,物品把持は困難であった.また,ボタンを選択して押す等の巧緻操作も困難であった為,スイッチの形はレバー式を推奨.土台部分にはめ込み押し引きの運動により作動.素材は弾性のあるTPUを使用し,インフィル密度35%,長さ69㎝,重さ10g,で作製.スイッチ導入3日後にQUESTを聴取.その結果,21/40(サービスについては除外),大きさや有効性には高い満足度を示したが,「レバーの部分が外れてしまう」等の問題が挙げられた.原因は上肢を下した時の外力に耐えられず外れると聞かれた.その為,「重さ」,「耐久性」,「使いやすさ」に着目し調整した.
[第Ⅱ期]重さを調整した時期:QUESTを参考にレバーの軽量化の為,インフィル密度25%,長さ54㎝,重さ8gに調整.「重さ」の満足度は改善を認めたが,「外れる」問題は残った.その為,設計について話し合い,様式を土台へのはめ込み式から差し込み式への再調整で合意した.
[第Ⅲ期]土台を差し込み式へ変更した時期:外力によりレバーが外れてしまう問題点に対し,土台部分へのはめ込み式から差し込み式への変更.また,レバー部分はインフィル密度30%,長さ39㎝,重さ7gへ変更.導入後は外れる事はなく,満足度の高い自助具が提供された.
【結果】[QUEST]35/40.導入半年以降も破損や外れることなく経過.身体機能上での変化はないが,残存機能での操作が継続出来ている.また,生活上でギャッチアップして過ごす時間が増加し,苦痛の訴えが軽減した.
【考察】3Dプリンタによる自助具の製作は作業療法の促進に有効であった.作業療法士が自助具の利用者を支援する事は,問題解決や意思決定を支援する事が出来ると言われている(Emily/2017).また, QUESTは自助具の満足や不満の表現に繋がることを述べている(Louis Demers/2018).これらから,療養病棟における3Dプリンタでの自助具の共同製作は,症例の満足度の高い福祉用具の提供や問題解決や意思決定の機会に繋がる事が考えられた.