第58回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

援助機器

[PL-3] ポスター:援助機器 3

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PL-3-4] 急性期熱傷患者へのVR技術を併用した作業療法によりROM拡大を果たした一症例

山本 美咲1, 東 謙一1, 國友 淳子1, 大林 茂2 (1.埼玉医科大学総合医療センター リハビリテーション部, 2.埼玉医科大学総合医療センター リハビリテーション科)

【はじめに】
2019年,仮想現実(virtual reality:VR)技術を利用したリハビリ用医療機器「mediVRカグラ®(以下,カグラ)」は,座位でリーチング動作を行うことで上肢機能,認知機能,および慢性疼痛等への改善効果の可能性が報告されている.
今回,疼痛により介入に難渋した熱傷患者に対して作業療法とカグラを実施した結果,疼痛が改善しROMの拡大を認めた症例を経験したので報告する.発表にあたり,当院の倫理規定に則り,本人より同意を得ている.
【症例】
症例はネパール出身の40歳代男性.簡単な日本語の理解は可能だが,詳細な指示理解は困難であった.X年Y月Z日,業務中にフライヤーの油が飛び散り,深達性Ⅱ度の熱傷を両上肢全体,腹部の合計20%に負った.当院へ搬送,洗浄治療を施行しZ+2日から作業療法(OT)が開始となった.OT初回評価時,両上肢に熱感と腫脹,創部からの多量の滲出液を認め,バルキードレッシングにて保護をされていた.疼痛は安静時から右上肢にNRS10,左上肢にNRS6の訴えがあった.ROMは包帯保護のため精査は困難であったが特に前腕回内外での抵抗感を認めた.両上肢の自他動でのROM練習を実施するが内部組織の伸張感を感じる前に「怖い怖い」と訴え,防御性収縮を強く認めた.そのため,処置後の鎮静時に介入した.その結果,防御性収縮なく他動ROM練習が可能で覚醒時に比し,可動範囲の拡大を認めた.Z+9日,他動ROM(右/左)は肩屈曲150°/制限なし,肘屈曲85°/90°,肘伸展-20°/-10°,前腕回内60°/60°,回外20°/70°,手掌屈55°/50°,背屈30°/50°であった.Z+14日,左上肢に関しては明らかな疼痛や可動域制限を認めなくなったものの,右上肢の運動時の不安感や疼痛はNRS5であり,他動運動時の防御性収縮も残存していた.運動の必要性の説明を試みるが日本語の理解が難しくROM練習に難渋した.
【方法】
Z+15,16日に,通常のOT介入に加え,カグラを用いたリーチング動作を1日50~60回,ゆっくりとしたペースで10分程度実施した.なお,リーチング回数は本人の疲労に合わせて調整した.
【結果】
右上肢の運動時痛はNRS2まで低下した.運動時の不安感は改善し,防御性収縮は消失した.右上肢の他動ROMは肩屈曲150°,肘屈曲145°,伸展-15°,前腕回内75°,回外75°,手掌屈70°,背屈75°まで拡大した.Z+17日,自宅退院となった.
【考察】
熱傷患者特有の疼痛は,受傷直後の急性期から発生することが多いとされている.また,防御性収縮は,疼痛や関節運動に対する不安感により増強され,ROM制限の一因となりうる.本症例は運動に対する不安感により防御性収縮を発生させていたことが観察された.これは慢性疼痛患者にみられる痛みの負の連鎖,すなわち痛みの発生条件を記憶し,それを基に環境や視覚情報から予め痛みの発生を予測し,痛みへの破局的思考が行動の抑制をしてしまう現象が生じていたのではないかと考える.その負の連鎖からの脱却が疼痛の改善に重要であると言われている.カグラの特性の一部としてVR空間は体の一部を意図的に再現しない手法を取ることで,患者が自身の関節運動を見えない状態を作り,娯楽性の高いリハビリを行えるような構成となっている.それにより,本症例が疼痛の負の連鎖から脱却することができ,防御性収縮の改善に影響を及ぼした可能性がある.
また,カグラの操作は,患者に言語的な説明をせずとも直感的に理解ができるような構成を意識して開発されており,本症例のように日本語による詳細な指示理解が難しい患者にも使用することができた.
今後も症例数を増やし,急性期,熱傷患者に対するカグラの有効性を検討していく必要がある.