第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-4] ポスター:MTDLP 4 

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PM-4-2] 回復期脳卒中患者に対してMTDLPを活用し畑作業を通して生活行為の向上が出来た一例

伊藤 隆史, 佐藤 淳一郎, 片桐 一敏 (医療法人 喬成会 花川病院 リハビリテーション部)

【はじめに】今回,左片麻痺と高次脳機能障害を呈した症例を担当した.当初は機能訓練中心に介入していたが,高次脳機能障害によりADL介助量の変化は乏しかった.MTDLPを用いた目標設定を行い他職種交えた包括的な関わりと本人主体の畑作業を行ったことで目標とした生活行為が向上出来た一例を報告する.
【倫理的配慮】発表に際し,患者の個人情報とプライバシー保護に考慮し,口頭と書面で説明を行い本人・家族から同意を得た.
【事例紹介】90歳代男性,要介護2の80歳代の妻と2人暮らし.職歴は仕出し屋の調理員.趣味は畑作業.既往歴:小脳梗塞,腰椎圧迫骨折(X日-180日),狭心症,気管支喘息.X日に心原性脳梗塞発症.X日+27日に当院回復期病棟に転院.
【作業療法評価】Br-stage:Ⅳ/Ⅳ/Ⅴ,STEF:右/左54/24点,握力19.2/15.2kg,TMT-A:772秒,MMSE:13点,FIM:運動26点/認知11点.移動は,腰痛あり車椅子全介助.左半側視空間失認による食事皿左半分の見落としや,地誌的な道の迷い,構成障害や保続のため更衣介助,毎回の失禁などADL介助量の増大があった.病識の低下から生活で困っていることはなく,左身体失認もあり左手が使いにくいことを気にされない様子があった.腰痛軽減し独歩可能となると本人から帰宅願望が聞かれた.しかし,ADL介助量は残存していた為,X日+47日からMTDLPによる目標設定を本人・妻と一緒に行った.本人からは「自宅に帰って畑作業がしたい」自己評価は実行度0/10点,満足度0/10点.妻からは「せめてトイレが見守りで行えたら」との希望で妻からみた実行度2/10,満足度2/10だった.
【作業療法方針】最終合意目標を「病院で畑作業を一緒に行う」,「トイレでパットの交換が一人で行える」とした.OT方針は畑作業を通して身体機能,高次脳機能の向上を目指し,機能回復に合わせたADLの動作方法・環境の設定を行うとした.
【経過】X日+55日から畑作業開始.畑の雑草取りや石の撤去の単純作業から開始.畑の周りで道に迷う場面や,保続により作業の切り替えが出来ないなどのエラーがみられていた.畑環境に慣れてくると「明日はこの作業をしましょう」など自分で計画を立てる場面も出てきた.畑の周囲の環境にも慣れどこに何の植物が生えているかなども覚え道に迷わなくなった.収穫の際は大根の葉など良い葉も悪い葉も区別出来ず剪定してしまっていたが,後半は悪い葉のみ剪定するなど注意向上もみられた.ADLは声掛け・見守りレベルとなり時折パット内に尿失禁はあるが,パット交換は声掛けで可能となった.その後収穫した作物で調理訓練を3回実施し見守りで調理可能な程度に左手の麻痺回復と注意の切り替えも回復した.本人の畑作業に対する満足度8/10,実行度8/10,妻のトイレに対する満足度7/10,実行度7/10となった.
【最終評価】X日+179日,Br-stage:Ⅴ/Ⅴ/Ⅴ,STEF:右/左91/82点,握力23.8/22.3kg,TMT-A:68秒,MMSE:22点,FIM:運動72点/認知21点.移動は,屋内独歩自立.慣れた環境では声掛けでADL動作も可能となった.しかし,新しい課題を出すと今でも混乱する場面はあるので高次脳機能障害自体はまだ残存している.退院先は夫婦で有料老人ホームに入居となった.
【考察】症例は,病識の低下から病院内での機能訓練では主体性に欠ける生活となり,身体的な機能回復だけでは高次脳機能障害の為ADLの向上に繋がりにくかった.身体機能の向上に従い病院でのリハビリに意欲低下がみられていたが,MTDLPを用いて本人にとって意味のある畑作業を通したことで,主体性や満足感が得られた.そのため,活動・参加レベルが向上し回復期リハにおけるMTDLP使用の有用性が示唆された.