[PN-1-8] 手指痙縮治療評価にカナダ作業遂行測定を用いることで良好な治療経過に加え行動変容が得られた一例
【はじめに】中枢神経疾患では痙縮を随伴することが多く,近年ボツリヌス療法が用いられるようになってきた(菊池2018).このボツリヌス療法では現実的な治療目標を患者と共有していることが重要と言われている(安保2020).リハビリテーション(以下リハビリ)治療における目標設定の評価ツールとしてカナダ作業遂行測定(COPM)があるが,ボツリヌス療法と併用した報告は少ない.今回,中心性頸髄損傷者に対しボツリヌス療法を実施し,訪問リハビリに加えて,COPMを併用した結果,患者のアドヒアランスが向上し,日常生活での上肢使用場面が拡大して,行動変容に繋がったため報告する.
【患者紹介】70歳台の男性,右利き,自宅アパートの階段から転落しC3中心性頸髄損傷を受傷した.受傷17日,C3-5椎弓形成術を受けた.受傷1ヵ月後に回復期病院へ転院し,受傷7ヵ月後にサービス付き高齢者住宅へ入所し,同時期にリハビリが週1回で開始となった.介入時のASIA Neurological Level of Injury C5,Asia Impairment Scale Dであった.Activites of Dailly Living(ADL)では下肢機能は歩行器歩行で自立し,上肢機能は右上肢で実用手レベル,左上肢は物を押さえる等の補助手レベルであった.受傷1年8ヵ月後に本人より「左手指の握り込みを改善し手を開きたい」との訴えがあり,上肢痙縮に対してボツリヌス療法を実施する方針となった.
【倫理的配慮】本報告は本人から同意を得ており,報告すべきCOI関係にある企業等はない.
【経過】COPMを用いて,まず「左手でペットボトルを掴みたい」との治療目標が挙げた.目標に対して遂行度,満足度を10段階で聴取し,遂行度の10点に関しては‘‘病前の上肢機能の状況‘‘という目安で設定した.活動参加の評価にはMoter Activity Lom (MAL),実動作場面を観察で評価した.運動機能に関しては中指の近位指節間関節(PIP関節),遠位指節間関節(DIP関節)の伸展運動のModified Tardieu Scale(MTS),自動での伸展可動域,Modified Ashworth Scale(MAS)による筋緊張の評価を行った.各評価をボツリヌス療法,治療後1ヵ月で比較した.初回ボツリヌス治療は受傷1年10ヵ月後に左浅指屈筋・深指屈筋に各々50単位施注した.
ボツリヌス療法前後の運動機能はPIP関節のMTSでV1が-10°→0°,MASは2→1+と改善した.さらにDIP関節のMTSはV1が-40°→0°,MASは2→1+と改善した.
活動参加の評価は遂行度1/10点→8/10点,満足度 1/10点→10/10点と改善が見られた.MALの使用頻度は平均0.0→2.2,動作の質は平均0.0→2.0と変化し,実動作はボツリヌス治療前では実施困難であったが,治療後は目標動作が可能となった.また,左手で引き戸のドアノブを掴み開閉する動作や,自主トレーニングに関しての質問や教示を求め,実施に至る等の行動変容も見られた.
【考察】COPMの利点を金子(2023)は,治療への動機づけや順守を促進すると述べている.今回,患者の行動変容が見られた要因としてボツリヌス療法による痙縮の軽減,治療開始の際にCOPMにより治療目標が決定し,最も関心があったペットボトルの把持練習から開始し満足できたことで,ドアノブの開閉操作等の他の上肢使用頻度の拡大を促せたことが考えられた.またリハビリにて上肢使用状況の確認をする機会が意欲の維持に繋がったことも考えられた.一方,本患者はCOPMの評価前から左手指に関して不満の訴えがあり,問題解決の意識がある状況だった.今後の課題としては症例数を増やし,問題意識の程度に関わらず,ボツリヌス療法とCOPM,リハビリの併用が行動変容に関与するかについて検証していきたい.
【患者紹介】70歳台の男性,右利き,自宅アパートの階段から転落しC3中心性頸髄損傷を受傷した.受傷17日,C3-5椎弓形成術を受けた.受傷1ヵ月後に回復期病院へ転院し,受傷7ヵ月後にサービス付き高齢者住宅へ入所し,同時期にリハビリが週1回で開始となった.介入時のASIA Neurological Level of Injury C5,Asia Impairment Scale Dであった.Activites of Dailly Living(ADL)では下肢機能は歩行器歩行で自立し,上肢機能は右上肢で実用手レベル,左上肢は物を押さえる等の補助手レベルであった.受傷1年8ヵ月後に本人より「左手指の握り込みを改善し手を開きたい」との訴えがあり,上肢痙縮に対してボツリヌス療法を実施する方針となった.
【倫理的配慮】本報告は本人から同意を得ており,報告すべきCOI関係にある企業等はない.
【経過】COPMを用いて,まず「左手でペットボトルを掴みたい」との治療目標が挙げた.目標に対して遂行度,満足度を10段階で聴取し,遂行度の10点に関しては‘‘病前の上肢機能の状況‘‘という目安で設定した.活動参加の評価にはMoter Activity Lom (MAL),実動作場面を観察で評価した.運動機能に関しては中指の近位指節間関節(PIP関節),遠位指節間関節(DIP関節)の伸展運動のModified Tardieu Scale(MTS),自動での伸展可動域,Modified Ashworth Scale(MAS)による筋緊張の評価を行った.各評価をボツリヌス療法,治療後1ヵ月で比較した.初回ボツリヌス治療は受傷1年10ヵ月後に左浅指屈筋・深指屈筋に各々50単位施注した.
ボツリヌス療法前後の運動機能はPIP関節のMTSでV1が-10°→0°,MASは2→1+と改善した.さらにDIP関節のMTSはV1が-40°→0°,MASは2→1+と改善した.
活動参加の評価は遂行度1/10点→8/10点,満足度 1/10点→10/10点と改善が見られた.MALの使用頻度は平均0.0→2.2,動作の質は平均0.0→2.0と変化し,実動作はボツリヌス治療前では実施困難であったが,治療後は目標動作が可能となった.また,左手で引き戸のドアノブを掴み開閉する動作や,自主トレーニングに関しての質問や教示を求め,実施に至る等の行動変容も見られた.
【考察】COPMの利点を金子(2023)は,治療への動機づけや順守を促進すると述べている.今回,患者の行動変容が見られた要因としてボツリヌス療法による痙縮の軽減,治療開始の際にCOPMにより治療目標が決定し,最も関心があったペットボトルの把持練習から開始し満足できたことで,ドアノブの開閉操作等の他の上肢使用頻度の拡大を促せたことが考えられた.またリハビリにて上肢使用状況の確認をする機会が意欲の維持に繋がったことも考えられた.一方,本患者はCOPMの評価前から左手指に関して不満の訴えがあり,問題解決の意識がある状況だった.今後の課題としては症例数を増やし,問題意識の程度に関わらず,ボツリヌス療法とCOPM,リハビリの併用が行動変容に関与するかについて検証していきたい.