第58回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-9] ポスター:地域 9

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PN-9-8] 自宅退院後7年間の閉じこもりから, 主体性を引き出し活動意欲向上に繋がった症例

池元 朱音1, 中原 剛弘1, 佐藤 優子1, 荒木 勇人2, 荒木 攻2 (1.荒木脳神経外科病院 リハビリテーション部, 2.荒木脳神経外科病院 診療部)

"【はじめに】
 「閉じこもり」とは,外出頻度が少なく,生活の活動範囲がほぼ家の中のみへと狭小化する状態である.また,閉じこもりをもたらす要因には,身体的,心理的,社会的要因があり,それらが相互に関連して発生すると考えられている.今回,脳卒中後に閉じこもり状態であった症例が,小さな成功体験をきっかけに社会交流を通して心理面や活動に変化を認めたため,ここに報告する.
【症例紹介】
 60歳代男性(以下A氏),X年Y月くも膜下出血を発症.左上下肢に重度麻痺,高次機能障害残存.認知機能は日常会話から記憶力は保たれていた.妻,息子と同居. X年Y+6ヶ月後車椅子レベルで自宅退院.退院時,Functional Independence Measure(以下FIM):97点(運動項目73点,認知項目24点).痙攣発作や肺炎を発症し,徐々に日常生活動作(以下ADL)能力が低下.X+1年に訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)の介入開始.開始時,FIM:47点(運動項目33点,認知項目14点)基本動作一部介助,ADL全介助.脳卒中後うつスケール(以下JSS-D)12.04点,脳卒中後情動障害スケール(以下JSS-E)23.89点,Life space assessment(以下LSA)0点.介助者に依存的であり,活動や他者交流には消極的.介入時以外はベッド上臥位で過ごしている.また,易怒性があり頻回に介護ヘルパーなどの担当者変更希望あり.家庭内での暴言暴力により精神科への受診歴あり.
【経過】
 訪問リハは,週1回40分の介入を行った.開始時は,麻痺側の疼痛が強く攻撃的になり,動作確認時のみ,なんとか動作協力が得られる程度であった.A氏や家族と目標の共有を行い,段階的に活動範囲の拡大に努めた.その後の生活で家族関係は悪化し,妻と離婚,息子とは疎遠になった.他者交流が低下する中で,A氏より「桜がみたい」との希望があった.長時間安楽に過ごすことのできるティルト式車椅子を選定し外出支援を行った.繰り返し外出を行う事で,身なりを整えるため髭剃りや手指衛生を主体的に取り組むようになった.また,元々料理を行っており,「料理をしたい」と食材調達のため買い物を通して介入時毎回外出が可能となった.環境調整を行い調理を実施したところ,「思っていたよりも上手くできた」と満足感が得られた.
【結果】
 X+9年,FIM37点(運動項目23点,認知項目14点),整容が一部介助で可能.障害福祉サービスより移動支援40時間/月利用.顔なじみの店員と会話をしながら商品を選択するなど,他者交流場面あり.JSS-D:2.7点,JSS-E:5.87点.LSA:4点.「居酒屋,墓参りに行きたい」「お好み焼き屋を経営したい」などの発言が聞かれている.目標達成のため必要な方法や手段を模索することが増え,自ら調理メニューを考え,実践に向けて準備を行っている.
【考察】
 本症例は,若年での発症であり,仕事のやりがい,役割の喪失と脳卒中後遺症の感情障害から,障害受容が十分にできず意欲は低下し,周囲との交流に消極的になった事で閉じこもりに至ったと考える.介入当初と比較しJSS-DEに有意差を認めている.生活期のリハビリテーションとは,「患者自らが意思をもって,判断し活動することができるように,患者の主体性を引き出すプログラムの展開が必要である」と述べられている.本症例を通して,必要とする支援内容の聴取,他職種で情報共有し目標設定,迅速に解決手段の検討を行った.細かい目標設定や,具体的な準備や実践を行い,成功体験を通して活動意欲の向上に繋がったのではないかと考える.また,信頼関係の構築,他職種連携,外出の阻害因子を抽出し改善したことで,社会交流機会が増加し心理的な側面に大きな影響を与えると実感できた事例である."