第58回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-7] ポスター:基礎研究 7

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PP-7-1] 一側肢の反復運動が同側大脳半球運動野の活動性に与える影響

谷川 孝1,2, 森 大志1,3 (1.県立広島大学大学院 総合学術研究科 保健福祉学専攻, 2.因島医師会病院 リハビリテーション科, 3.県立広島大学 保健福祉学部保健福祉学科作業療法学コース)

【はじめに】
我々は,日々の臨床の中で脳損傷者の麻痺肢の運動機能回復を目的とした徒手的介入を行っている.繰り返しの麻痺肢への徒手的介入が運動機能回復に寄与することを実感する一方で,麻痺肢による運動時に非麻痺肢の筋緊張が亢進することも経験する.いわゆる鏡像運動が生じる.我々は,実験的な鏡像運動が同側皮質一次運動野(M1)の活動性を増加すること,これに伴い対側肢の粗大運動が増強されるのに対し,巧緻運動機能が低下することを報告した(Matsuura, Mori, et al, 2020).一方で,この結果は,一側肢の運動が同側M1の活動性を増加させるという新しい知見をもたらした.さらに「運動の難度」を高くすると運動肢と同側M1の活動性が増加することも示された.これらの結果は,運動肢と同側のM1の活動性は「運動の要素」に強く影響されている可能性を示唆した.
【目的】
脳損傷後の運動機能回復を加速させるためには肢運動の中枢制御機序を明らかにする必要がある.そこで,本研究では「運動の要素」の中の「運動回数(運動時間)」に着目して,これが同側のM1の活動性に及ぼす影響を上下肢運動で検証することを目的とする.これを明らかにすることができれば,肢運動の制御機序についての新しい考察が可能になると期待される.
【方法】
研究対象は,神経筋疾患を有しない右利きの成人とした.本研究は県立広島大学研究倫理委員会の承認(第22MH051号)を得ており,参加者には,実験について紙面にて説明し同意を得た上で実施した. M1の活動性は経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation: TMS)を用い,運動閾値(Motor threshold; MT),TMSに伴い誘発される筋活動(運動誘発電位,Motor evoked potential: MEP)の振幅および潜時を計測することで検証した.上肢運動課題は右手の母指と示指間の最大ピンチ力の10%強度の反復指把持運動(100回,0.5Hz)とし,下肢運動課題は右足関節背屈時に前脛骨筋で記録される最大背屈筋力の50%強度での反復足関節背屈運動(100回,0.5Hz)とした.MEPの測定はMEP記録用電極を左手(第一背側骨間筋)または左足(前脛骨筋)に貼付し,運動肢と同側の右M1のhot spotを120% MTで刺激し,運動前,終了直後,15分後,30分後,60分後に記録した.MTは,定法に則り10回のTMSで50μV以上のMEPが5回以上記録できる刺激強度,そしてその頭皮上の部位をhot spotとした.運動課題実施前のMEP振幅値と運動後のMEP振幅値の差を統計学的に比較解析した.
【結果】
両課題でのMEPは,運動前と比較して運動直後(0分)に有意に増加した.また,増加したMEPは運動後60分までに運動開始前の数値(基礎値)に回復した.しかし,基礎値へ回復する過程は上肢と下肢で異なっていた.
【考察】
本研究の結果から,上肢または下肢の反復運動では同側M1の活動性を増加させるが,上肢および下肢運動制御メカニズムには部分的に異なることが示唆された.特に運動直後の同側M1の活動性増加は,高い運動難度課題時の運動肢と同側M1の活動性と同様の結果であり,運動の難度だけでなく,「運動時間」も同側の脳活動性に影響を与える要素であることが示唆された.一方で,運動課題終了後に基礎値に戻る経過が異なっていたことは上下肢ではその活動性を調節するメカニズムが異なる可能性が示唆された.