[PR-6-2] 国家試験対策に難渋した作業療法学生が国家試験に合格するまでのプロセス
複線径路等至性アプローチ(TEA)による分析
【背景・研究の目的】本学では,最終学年の10月より,2〜3人のグループ学習を基盤とした国家試験対策(以下,国試対策)を行っている.早期から教員がグループを担当し,個別対応を行いながら学習のフォローアップを行っているが,模擬試験の成績の伸び率は個人差が大きい.そこで本研究では,国試対策開始初期には成績が低迷していながらも,その後の伸び率が大きく,国家試験に合格できた学生は,国試対策期間中にどのような経験をしているのか.また,その経験をどのように捉え,次の行動選択をしていたのかを記述・考察することを目的とした.本研究は,仙台青葉学院短期大学大学研究倫理審査委員会で審査非該当との回答を得て実施した.また,対象者の同意を得ており,利益相反関係にある企業等はない.【方法・対象】国試対策に難渋する学生がどのように国試合格に至ったのかを検証するためには,日々行われる教員や他学生との相互交流や認識を時間的変化の中で捉え,縦断的に分析・考察する必要があると考えた.そこで人間の成長を時間的変化と文化社会的文脈との関係の中で捉え記述するための方法論である複線径路等至性アプローチ(TEA )を採用した.対象者の人数については,1/4/9の法則に則り,個人の経験の径路の深みを描くことができる1名を対象とすることとし,初回模擬試験と最終模擬試験で成績の伸びが最も大きく,国家試験に合格したA氏を招待した(HIS).【データ収集・分析】2023年3月〜9月に1回約60分のインタビューを実施した.インタビューデータから作成した逐語録を研究分担者とともに精読し,意味のまとまりごとに分け,TEMの概念ツールを用いてTEM図を試作した.また,TEM図の中の分岐点(BFP)については,発生の三層モデル(TLMG)を用いて可視化した.2回目以降のインタビューでは,試作したTEM図をA氏に呈示し,研究者の解釈の誤りや不足,追加すべき項目について確認しながらトランスビュー的飽和状態に至るまで修正と分析を繰り返し,4回のインタビューを経てTEM図およびTLMGを完成させた.【結果】国試対策開始当初は模擬試験の成績やグループメンバーとの能力差から不安が大きい状態であった.しかし成績低迷者にピックアップされ,同程度の成績のメンバーとの学習が始まると,「手厚い指導が受けられる」と前向きに解釈し,教員の提示する課題に素直に取り組んだ.このときA氏には,「ネガティブにならない」「やらないと先生に怒られる」「これだけやっているんだから受からなければもったいない」などの多様な記号が発生していた.その後,「学習したところは得点できる」という実感を得るも,成績の伸び悩みから成績上位の友人に学習方法について相談すると,教員とは異なる学習方法を勧められ悩んだ.その悩みを正直に教員に相談すると,これまでの学習方法を継続するよう強く説得され,「長年国試対策をしてきた教員を信じよう」と割り切ることができた.その後,メンバーの追加により一時的にグループの和が乱れ,学習に集中できなくなったが,すぐに教員がグループを再編成し,学習しやすい環境になった.学習に面白さを感じ始め,過去10年分の過去問を毎日2年分ずつ解くことを基本に学習を進め,国試当日まで「受からないかも」という不安が同居しながらも,最後には「私は限界までやり抜いた」という思いで国試に臨むことができ,A氏は国試に合格した.【結語】本研究では,国試対策に難渋した学生が国試に合格するまでのプロセスについて検証した.今後はより多くの事例を分析し,学生の多様な学習状況に対して,より有意義な対応ができるよう探究していきたい.