第58回日本作業療法学会

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ポスター

教育

[PR-8] ポスター:教育 8

Sun. Nov 10, 2024 9:30 AM - 10:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PR-8-2] 多職種連携教育の方法の模索

2つの演習形態での比較

下川 幸蔵1, 中島 裕也1, 近田 真美子2, 近藤 やよい2, 林 浩嗣1 (1.福井医療大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻, 2.福井医療大学 保健医療学部 看護学科)

【はじめに】
地域包括ケアシステムの構築やニーズ,社会の変化に対応するため,専門職同士の連携Interprofessional Work(IPW),その基盤となる専門職連携教育Interprofessional Education(IPE)の重要性が高まっている.複数の領域の学生がともに学ぶIPEを卒前教育に取り入れる大学が増加している.本学でも他専攻の学生同士が2つの形態で事例検討をする機会があった.形態の違いで本学学生の多職種連携に関する意識が変化したのかを調査したので報告する.
【対象と方法】
本学作業療法学専攻3年生のうち,本調査の内容を理解し,同意が得られた27名を対象とした.対象は精神障害関連の授業において,多職種を交えて,①紙面上での事例を通したアセスメントと,②模擬患者を演じ,その事例を通したアセスメントを行った.それぞれの後,IPEに関する調査を行った.IPEの尺度にはCurran らの報告を基に牧野らが作成したチーム医療教育に対する態度15 項目を用い,5 件法で回答を求めた.その結果を項目ごとにWilcoxon符号付順位検定と主成分分析による因子分析(バリマックス回転)で比較した.統計ソフトはSPSS28.0を使用した.なお,本研究は倫理審査委員会の承認を得てから実施した.
【結果】
IPE尺度は,全項目で前後とも概ね高得点であった.演習形態による項目に有意な差は認められなかった.因子分析の結果,①紙面上での事例を通したアセスメントでは4因子が抽出され,それぞれ“Communication and Collaboration (協調)”“Clinical problem understanding (問題理解)”“Limits of professional specialization (専門性の限界)”“Effective joint classes (効果的な合同授業)”となった.②模擬患者を通したアセスメントでは4因子が抽出され,それぞれ“Strengthening teamwork and problem-solving (チームワーク強化と問題解決)”“trust and respect (多職種への尊敬)”“Refine communication skills (コミュニケーション技術向上)”“Limits of professional specialization (専門性の限界)”となった.
【考察】
IPE尺度が概ね高得点であったことから,合同演習によりIPEに向けた態度が育まれていることがわかる.紙面上での事例でも,模擬患者での事例でも,IPWの重要性を身につけるためには有効であることが示唆された.2つの演習形態で共通していたものは,「コミュニケーションの重要性と協働することの意義」,「単一職種だけでのアセスメントの限界」である.精神科医療の多職種連携では,治療という単一課題でなく,生活のしづらさまでを含む,総合的課題を扱うという特徴があり,近年ではさらに多様化している(異儀田,2022).卒前教育において,学生が多職種の視点を学ぶことで,臨床推論に幅がうまれ,アセスメントが具体化すると考える.また,模擬患者での事例に特徴的であったのは「多職種への尊敬」であり,グループワーク中に他者の意見を受容している様子が見られた.養成校のカリキュラムが進んでいくにつれて,各職種,作業療法士として自身の基礎知識や専門知識のみに偏ってしまう恐れがある.多職種連携を阻害する一因に自分の視野への偏りと支援者の思い込みが挙げられており(高田,2021),卒前教育にそれが解決できれば,生活課題を支援するためのアセスメントの幅が拡大する可能性がある.多職種の視点の違いがあることを理解した上で,尊重する姿勢をもって協働することが必要である.これを合同授業,特に模擬患者を通した演習によって育むことができると考える.