[PR-8-5] 日常生活を豊かにする最新機器や道具について
実際の症例を通して考える
【はじめに】
近年,養成校教育では「問題解決型授業(PBL)」が重要視され,本学でも学生が自ら問題解決に取り組む能動的学習を行っている.しかし,コロナ禍の影響で遠隔授業を行っていた際,お互いに対話することは難しく,PBLが不十分であった.また,情報通信技術(ICT)の進歩が著しい中,日常生活を豊かにするためには,絶えず新しい情報を求める必要がある.今回,実際の症例に基づいて生活支援を考えるためのレポート課題を提示した.その結果を報告する.
【対象と方法】
対象は地域作業療法学演習を受けた3年生(前期開講)28名と2年生(後期開講)16名の計44名とし,学生には実症例(筆者)を通じてActive Learningを実施した.症例は50歳代男性,右片麻痺(上肢Ⅳ,手指Ⅱ,下肢Ⅳ),失語症,ADLおよびIADLは自立しているが,右手は補助手として使用し,歩行は右足短下肢装具(SHB)を装着し自立している.3回の授業で,症例から聞き取りをする,インターネット等で機器を検索させ,授業時間外も質問は絶えず受け付けるとした.課題は「日常生活を豊かにする最新機器や道具について」のレポートであり,その内容についてテキストマイニングを使用し,3年生と2年生とで比較検討した.
なお,本研究は倫理審査委員会の承認を受け実施しており,学生からも同意を得ている.
【結果】
両学年で「できる/操作/多い/使用/Alexa」などが共通し,ICT技術の活用が動作の簡略化および獲得の可能性を広げる手段として強調された.3年生では「大きい/難しい/家電/暗い/カーテン」などが出現し,家電などをコントロールすることが多く見られた.一方2年生では「キャッシュレス決済/簡単/機器/スマホ/充電」などが出現し,クレジットカードやスマホを使った決済方法などが挙がった.また3年生では「価格-高い」などが出現し,約35%の学生がレポートに値段を書いていたが,2年生では誰も書かなかった.共起キーワードにおいても,3年生では「下肢/Ⅳ/装具/片麻痺/指」および「電気/消す/つける/スイッチ/部屋」などが見られ,下肢および手指の障害,電気をつけるという点に着眼点を置いていた.2年生では「指/Ⅱ/道具/日常生活/豊か」および「充電/ケーブル/置く/スマホ/タイプ」などが見られ,手指の障害,スマホの充電に着眼点を置いていた.
【考察】
3年生と2年生のレポートでは同じような単語があり,日常生活を豊かにするという観点で共通していた.3年生では『装具』というキーワードがあり「外からでも家電や照明などを操作でき,カーテンに取り付けた後はスマートフォンで開閉が可能」という,移動を伴う動作を簡便に行うための支援,特に夜間のSHBの着脱に関する問題を考えていた.一方で2年生では『上肢』というキーワードがあり「呼びかけが終わったら“アレクサ切って”で終了させる,キャッシュレス決済とは,現金以外で支払う決済手段のことであり,ATMを探して現金を引き出す手聞がかからない」という,両手動作の簡略化,特に財布の開け閉めや現金の受け渡しに関する問題を考えていた.この違いは臨床実習での経験の差異に起因していると考えられる.また,筆者自身の障害を事例として提供し,問診や評価などが行いやすい環境設定を行ったことで,学生が障害理解や生活イメージがつきやすくなり,PBLを効果的に活用する手段となったと考えられる.
多様性の時代を迎え,対象者に寄り添った作業療法がますます必要とされている.既存の技術や可能性に囚われず,ICT技術などを活用して新しい「生活行為の再構築」に寄与することができる作業療法士が増えることを望む.
近年,養成校教育では「問題解決型授業(PBL)」が重要視され,本学でも学生が自ら問題解決に取り組む能動的学習を行っている.しかし,コロナ禍の影響で遠隔授業を行っていた際,お互いに対話することは難しく,PBLが不十分であった.また,情報通信技術(ICT)の進歩が著しい中,日常生活を豊かにするためには,絶えず新しい情報を求める必要がある.今回,実際の症例に基づいて生活支援を考えるためのレポート課題を提示した.その結果を報告する.
【対象と方法】
対象は地域作業療法学演習を受けた3年生(前期開講)28名と2年生(後期開講)16名の計44名とし,学生には実症例(筆者)を通じてActive Learningを実施した.症例は50歳代男性,右片麻痺(上肢Ⅳ,手指Ⅱ,下肢Ⅳ),失語症,ADLおよびIADLは自立しているが,右手は補助手として使用し,歩行は右足短下肢装具(SHB)を装着し自立している.3回の授業で,症例から聞き取りをする,インターネット等で機器を検索させ,授業時間外も質問は絶えず受け付けるとした.課題は「日常生活を豊かにする最新機器や道具について」のレポートであり,その内容についてテキストマイニングを使用し,3年生と2年生とで比較検討した.
なお,本研究は倫理審査委員会の承認を受け実施しており,学生からも同意を得ている.
【結果】
両学年で「できる/操作/多い/使用/Alexa」などが共通し,ICT技術の活用が動作の簡略化および獲得の可能性を広げる手段として強調された.3年生では「大きい/難しい/家電/暗い/カーテン」などが出現し,家電などをコントロールすることが多く見られた.一方2年生では「キャッシュレス決済/簡単/機器/スマホ/充電」などが出現し,クレジットカードやスマホを使った決済方法などが挙がった.また3年生では「価格-高い」などが出現し,約35%の学生がレポートに値段を書いていたが,2年生では誰も書かなかった.共起キーワードにおいても,3年生では「下肢/Ⅳ/装具/片麻痺/指」および「電気/消す/つける/スイッチ/部屋」などが見られ,下肢および手指の障害,電気をつけるという点に着眼点を置いていた.2年生では「指/Ⅱ/道具/日常生活/豊か」および「充電/ケーブル/置く/スマホ/タイプ」などが見られ,手指の障害,スマホの充電に着眼点を置いていた.
【考察】
3年生と2年生のレポートでは同じような単語があり,日常生活を豊かにするという観点で共通していた.3年生では『装具』というキーワードがあり「外からでも家電や照明などを操作でき,カーテンに取り付けた後はスマートフォンで開閉が可能」という,移動を伴う動作を簡便に行うための支援,特に夜間のSHBの着脱に関する問題を考えていた.一方で2年生では『上肢』というキーワードがあり「呼びかけが終わったら“アレクサ切って”で終了させる,キャッシュレス決済とは,現金以外で支払う決済手段のことであり,ATMを探して現金を引き出す手聞がかからない」という,両手動作の簡略化,特に財布の開け閉めや現金の受け渡しに関する問題を考えていた.この違いは臨床実習での経験の差異に起因していると考えられる.また,筆者自身の障害を事例として提供し,問診や評価などが行いやすい環境設定を行ったことで,学生が障害理解や生活イメージがつきやすくなり,PBLを効果的に活用する手段となったと考えられる.
多様性の時代を迎え,対象者に寄り添った作業療法がますます必要とされている.既存の技術や可能性に囚われず,ICT技術などを活用して新しい「生活行為の再構築」に寄与することができる作業療法士が増えることを望む.