日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS29_28AM2] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2014年4月28日(月) 11:00 〜 12:45 415 (4F)

コンビーナ:*千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

11:00 〜 11:15

[HDS29-01] 上高地・奥又白谷で発生した完新世の岩石なだれ

*苅谷 愛彦1松四 雄騎2原山 智3松崎 浩之4 (1.専修大学、2.京都大学、3.信州大学、4.東京大学)

キーワード:地すべり, 宇宙線生成核種編年, 飛騨山地

上高地・徳沢の新村橋付近では,梓川左岸の弁天沢沖積錐上にモレーンとされた岩屑丘が存在する.また梓川を挟んで弁天沢の対岸にある奥又白谷沖積錐上にも,モレーンや土石流堆積地形とされた小リッジが分布する.本発表では,これらの岩屑丘や小リッジの地形・地質・年代を述べ,成因を再検討する.調査範囲は,新村橋付近の梓川左岸(弁天沢)・同右岸(奥又白谷)である.弁天沢は長塀山西面を集水域とし,谷の出口に小沖積錐が発達する.集水域全体が美濃帯砂岩・泥岩からなる.奥又白谷は前穂高岳北尾根東面を集水域とし,谷の出口に大型沖積錐が発達する.集水域は溶結凝灰岩,文象斑岩及び花崗岩からなる.岩屑丘と小リッジの形成年代を知るため,弁天沢と奥又白谷の数地点で表層礫を採取し,石英粒子中の宇宙線生成核種を東京大学の加速器質量分析計で定量した.また新村橋付近の地下地質を推定するため,梓川河床で微動アレイ探査を行った.以上について,次の結果を得た.(1)弁天沢:高さ約1-10 mの複数の岩屑丘が,沖積錐上に集合して突出する.岩屑丘は,主に溶結凝灰岩と文象斑岩の粗大礫からなる.砂岩・泥岩礫は確認されない.岩屑丘構成層では巨礫がジグソー・パズル状に破砕し,礫間の細粒充填物を欠く.B25地点で採取した文象斑岩礫の年代は6.0-7.9 10Be kaだった.また微動アレイ探査では,深度152 mにVs=2800 m/s台の基盤相当層がみられ,同5-31 mにVs=480-540 m/sのやや堅固な層が検出された.後者は岩屑丘をなす礫層と同一層の可能性がある.(2)奥又白谷:奥又白谷沖積錐の中部に,比高10 m程度の小リッジが存在する.小リッジ上に長径5 m前後の,溶結凝灰岩と文象斑岩,花崗岩の巨礫が散在する.礫表面に割れ目が発達する.O5地点で採取した花崗岩礫の年代は0.8-1.1 10Be kaだった.これらの岩屑丘や小リッジは塚状・堤状の微・小地形からなり,ジグソー・クラックや割れ目を伴う淘汰不良の角礫層の存在で特徴づけられる.これらの特徴は大起伏山地や火山における岩石(岩屑)なだれの地形と堆積物に認められている.また構成礫が全て前穂高岳北尾根東面に露出する火成岩からなる点も特異で,物質の供給源や移送過程について示唆を与える.既往研究は岩屑丘や小リッジの成因として更新世の氷河作用に注目したが,堆積構造や礫種構成の点からは説明がむずかしい.両地形は,その分布位置や礫種,年代から判断して,奥又白谷上部斜面を発生域とする岩石なだれによると考えられる.弁天沢の東には堆積岩の重力変形が顕著な長塀山-蝶ヶ岳尾根が連なるが,梓川河床まで達する大規模な物質移動は穂高連峰側から生じていたことが判明した.年代の差異からみて,岩屑丘と小リッジは異なるイベントで形成されたと考えられる.ただし,いずれも完新世である.(本研究には科研費24300321を使用した.現地調査では上高地自然史研究会の協力を得た.)