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[HTT35-P10] 化合物群レベル放射性炭素同位体分析(CCSRA)と分子組成解析を用いたインドコルカタ運河堆積物中PAHsの起源識別
キーワード:化合物群レベル14C測定, PAHs, モンテカルロシミュレーション, 分子組成解析, 起源識別
多環芳香族炭化水素(PAHs)はその有害性から主要な大気汚染物質として注目されている。その排出を制御するために起源の定量的識別が求められている。近年、分取キャピラリーGC(PCGC)と加速器質量分析計(AMS)を用いた極微量スケール放射性炭素同位体測定の組み合わせにより、環境試料中の個別の有機化合物または化合物群について放射性炭素年代を測定できるようになった。例えばKankeら1やKumataら2は、この化合物レベル放射性炭素同位体測定 (CSRA)を堆積物やエアロゾル試料中のPAHsに適用し、化石炭素と現代炭素の寄与を識別することに成功している。しかし、堆積物試料など石油燃焼と石炭燃焼など異なる種類の化石燃料の寄与が想定されるケースでは、CSRAのみでの起源推定には不十分であった。
本研究では、インド第3の都市コルカタ(人口約1500万人)市内の運河から高濃度のPAHsで汚染された堆積物を採取し、PAHsの化合物群レベル放射性炭素同位体測定(CCSRA)によってバイオマス/化石炭素の起源を識別したほか、メチル化PAHs/PAHs比、石油起源マーカー物質であるホパン、PAHsの異性体比のモンテカルロシミュレーションによる3エンドメンバーモデルでの解析を併用した複合的なアプローチによって、PAHsの汚染源を解析した。
これまでの調査から、コルカタ市内運河の{s:8721}14-parental-PAHs濃度は15.9±11.6 μg/g(n=12)と、他の熱帯アジア地域8カ国都市域の沿岸堆積物中PAHsの濃度範囲(0.21±0.17 μg/g(マレーシア n=17)~1.76±1.53 μg/g(カンボジア n=4))と比べ、極端に高いことが分かってている3。
PAHs生成温度指標であるメチル化PAHs/PAHs比が0.47±0.24と低いことから、燃焼由来のPAHsの影響が強いと考えられた。
コルカタでの燃焼起源は、自動車排ガス、レンガ製造での石炭燃焼、家庭用調理ストーブでの薪、石炭燃焼があげられる。C30-hopane/{s:8721}PAHs比(0.09±0.05)も含めた分子組成解析から、このうちガソリン車排ガスと家庭用調理ストーブでの石炭燃焼については、影響は限定的と判断できた。
コルカタ運河堆積物から精製した{s:8721}178(フェナントレン+アントラセン)、{s:8721}202(フルオランテン+ピレン)、∑HMW(分子量228以上のペアレンタルPAHsの合計)の放射性炭素同位体比(pMC±σ)は、それぞれ10.6±0.1, 5.9±0.4, 7.6±0.5(KKNC)、8.4±0.5, 8.3±0.4, 8.5±0.3(KKSC)であり、化石炭素由来のPAHsが卓越した。2000年(試料採取から6年前)の大気中CO2と化石炭素をエンドメンバーとした同位体マスバランス計算から、{s:8721}178、{s:8721}202、{s:8721}HMW-PAHへのバイオマス燃焼の寄与率はそれぞれ9.8, 5.5, 7.0%(KKNC)、7.8, 7.7, 7.9%(KKSC)と試算された(Fig)。化石燃料燃焼に由来する残りの90-94%のPAHsを、石炭燃焼(レンガ製造)とディーゼル排ガスの2種類の混合によるものと仮定し、MPy/Py比を用いて計算すると、石炭燃焼(レンガ製造)とディーゼル排ガスの寄与率はそれぞれ60~65%、29~33%と試算された。文献に報告されている石油、石炭、バイオマスの各種燃料の燃焼由来PAHsの分子量202(フルオランテンとピレン)、276(インデノ[123-cd]ピレンとベンゾ[ghi]ペリレン)の異性体比をエンドメンバーとして用いたモンテカルロシミュレーション4でも、石油、石炭燃焼由来PAHsの寄与率はそれぞれ11%, 50%(KKNC)、13%, 56%(KKSC)と、化石炭素起源PAHsの大部分が石炭燃焼によることを示した。
1. Kanke H. et al., Nucl. Instrum. Meth. B, 2004, 223-224 (August), 545-554
2. Kumata H. et al., Environ. Sci. Technol., 2006, 40 (11) 3474-3480
3. Saha M. et al., Mar. Pollut. Bull., 2009, 58 (2), 189-200
4. Sheesley R.J. et al., Atmos. Environ., 2011, 45(23), 3874-3881
本研究では、インド第3の都市コルカタ(人口約1500万人)市内の運河から高濃度のPAHsで汚染された堆積物を採取し、PAHsの化合物群レベル放射性炭素同位体測定(CCSRA)によってバイオマス/化石炭素の起源を識別したほか、メチル化PAHs/PAHs比、石油起源マーカー物質であるホパン、PAHsの異性体比のモンテカルロシミュレーションによる3エンドメンバーモデルでの解析を併用した複合的なアプローチによって、PAHsの汚染源を解析した。
これまでの調査から、コルカタ市内運河の{s:8721}14-parental-PAHs濃度は15.9±11.6 μg/g(n=12)と、他の熱帯アジア地域8カ国都市域の沿岸堆積物中PAHsの濃度範囲(0.21±0.17 μg/g(マレーシア n=17)~1.76±1.53 μg/g(カンボジア n=4))と比べ、極端に高いことが分かってている3。
PAHs生成温度指標であるメチル化PAHs/PAHs比が0.47±0.24と低いことから、燃焼由来のPAHsの影響が強いと考えられた。
コルカタでの燃焼起源は、自動車排ガス、レンガ製造での石炭燃焼、家庭用調理ストーブでの薪、石炭燃焼があげられる。C30-hopane/{s:8721}PAHs比(0.09±0.05)も含めた分子組成解析から、このうちガソリン車排ガスと家庭用調理ストーブでの石炭燃焼については、影響は限定的と判断できた。
コルカタ運河堆積物から精製した{s:8721}178(フェナントレン+アントラセン)、{s:8721}202(フルオランテン+ピレン)、∑HMW(分子量228以上のペアレンタルPAHsの合計)の放射性炭素同位体比(pMC±σ)は、それぞれ10.6±0.1, 5.9±0.4, 7.6±0.5(KKNC)、8.4±0.5, 8.3±0.4, 8.5±0.3(KKSC)であり、化石炭素由来のPAHsが卓越した。2000年(試料採取から6年前)の大気中CO2と化石炭素をエンドメンバーとした同位体マスバランス計算から、{s:8721}178、{s:8721}202、{s:8721}HMW-PAHへのバイオマス燃焼の寄与率はそれぞれ9.8, 5.5, 7.0%(KKNC)、7.8, 7.7, 7.9%(KKSC)と試算された(Fig)。化石燃料燃焼に由来する残りの90-94%のPAHsを、石炭燃焼(レンガ製造)とディーゼル排ガスの2種類の混合によるものと仮定し、MPy/Py比を用いて計算すると、石炭燃焼(レンガ製造)とディーゼル排ガスの寄与率はそれぞれ60~65%、29~33%と試算された。文献に報告されている石油、石炭、バイオマスの各種燃料の燃焼由来PAHsの分子量202(フルオランテンとピレン)、276(インデノ[123-cd]ピレンとベンゾ[ghi]ペリレン)の異性体比をエンドメンバーとして用いたモンテカルロシミュレーション4でも、石油、石炭燃焼由来PAHsの寄与率はそれぞれ11%, 50%(KKNC)、13%, 56%(KKSC)と、化石炭素起源PAHsの大部分が石炭燃焼によることを示した。
1. Kanke H. et al., Nucl. Instrum. Meth. B, 2004, 223-224 (August), 545-554
2. Kumata H. et al., Environ. Sci. Technol., 2006, 40 (11) 3474-3480
3. Saha M. et al., Mar. Pollut. Bull., 2009, 58 (2), 189-200
4. Sheesley R.J. et al., Atmos. Environ., 2011, 45(23), 3874-3881