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[SGL44-09] テフラ層序に基づく関東地域における1.6 Ma前後の古地理復元
キーワード:テフラ, 上総層群, 第1堀之内タフ, 古地理復元
関東地域における前期更新世の古地理を復元するためには,関東平野に広く分布する上総層群の編年学的研究および堆積学的研究が役立つ.とくに等時間面を示すテフラとその上下の堆積物に着目することは正確な古地理を復元する上できわめて有効な手段となる.本研究ではこのような視点から第1堀之内タフ(HU1)とそれに近接するテフラの対比を行った. HU1は関東平野西部の多摩丘陵において,上総層群小山田層に挟在し,1.63 Maに噴出したテフラであり,関東地域の各地で分布が確認されている(鈴木・村田 2011).HU1模式地である東京都立川市の多摩川河床で採取した試料(降下軽石堆積物)からは,火山ガラスの屈折率として1.504-1.509,ホルンブレンドの屈折率として1.667-1.673,斜方輝石の屈折率として1.701-1.707,カミングトン閃石の屈折率として1.657-1.663の値が得られた.本研究では火山ガラスと斑晶鉱物の屈折率,火山ガラスとチタン磁鉄鉱の主成分化学組成に基づき,東京都立川市の多摩川河床(小山田層),武蔵野台地西部の狭山丘陵(狭山層),横浜地域南部の瀬上(小柴層),銚子地域屏風ヶ浦の地表部(小浜層),また地下試料として,武蔵村山市榎の榎トレンチコア,立川市富士見の立川コア,東大和市の東大和コアに挟在するテフラとの対比を検討した.その結果,狭山丘陵の狭山ゴマシオ火山灰,立川コアの15.24-15.48 mに挟在する降下軽石,東大和コアのHY-1.1-HY-1.6が新たにHU1と対比されることが明らかになった.また,HU1の給源火山付近の噴出物候補として長野県美ヶ原高原南部に分布する扉峠火山砕屑岩類,三城火山砕屑岩類の分析を行った.その結果,火山ガラスと普通角閃石の屈折率,火山ガラスの主成分化学組成から,両方ともHU1とは対比されず,HU1の給源は美ヶ原高原付近の火山ではない可能性が高いことが明らかになった.対比されたテフラから調査地における堆積速度を推定したところ,横浜地域瀬上では46.3 cm/kyr,立川コアでは59.0 cm/kyr,大田区萩中公園コアでは2.5-10.3 cm/kyr,銚子地域屏風ヶ浦では3.8-6.7 cm/kyrの値が得られた.これらの堆積速度の違いは,当時の堆積環境の違いを反映している.さらに,東大和コア,狭山丘陵の周辺は沿岸浅海部に堆積したため,テフラが一次堆積した後も波の作用によって移動を繰り返し,他の地域に比べて再堆積部が厚くなったと考えられる.