日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS23_1PM2] 強震動・地震災害

2014年5月1日(木) 16:15 〜 17:45 211 (2F)

コンビーナ:*元木 健太郎(小堀鐸二研究所)、座長:元木 健太郎(小堀鐸二研究所)

17:00 〜 17:15

[SSS23-P01_PG] 遠山地震(1718年)の災害調査

ポスター講演3分口頭発表枠

*坂本 正夫1 (1.飯田市美術博物館)

キーワード:遠山地震, 1718年, 地震災害, 中央構造線, 宝永地震

1,はじめに
 過去約1600年間に長野県内で記録された被害地震の内、県南部で広範囲に被害をもたらした地震は、1718年に飯田市南信濃和田を震源とする遠山地震のみである(新編日本の活断層,1991、気象庁精密地震室,2013)。遠山地震は、マグニチュード7.0で享保3年7月26日(1718年8月22日に発生した(宇佐美、2003)。この地震は、中央構造線沿いで発生したと考えられている(坂本、1977)。この地震の災害について、文献収集と現地調査を行ったので報告する。
2,調査結果
 長野県南部で判明した災害場所は22ヶ所である。この他、長野県内で4ヶ所、静岡県内で3ヶ所、愛知県内で3ヶ所、岐阜県内で3ヶ所、合計35ヶ所であった。この内、特徴的な災害事例を示す。(1)飯田市南信濃和田:震央付近で盛平山が崩れて裾野に出山を形成した。押出沢から押し出した土砂が遠山川をせき止めた。せき止め湖は一週間後に決壊し、遠山川の流路を替えて夜川瀬の平坦地を形成した。(2)阿南町新木田(あらきだ):花崗岩の基盤に砂岩・泥岩を中心とした新第三紀層がおおい、天竜川の右岸を構成している。地震によって「きび嶋」という場所の斜面が崩れて天竜川をせき止めた。せき止めた水は、上流の現存する大島という集落を水没させた。(3)阿南町古城:新第三紀の砂岩・泥岩からなる地質である。古城では、山崩れが24ヶ所で発生し、地名のついた田畑の崩壊は33ヶ所あり、現在もその地名が使われている。(4)下條村陽皐(ひさわ):第四紀扇状地や土石流の堆積物からなる。この流域で山崩れが起こり、寺や神社とその集落の多くが破壊された。また、この地区から東の方向に伊那山地、赤石山脈がそびえて見えるが、それらの山々が崩れる様子が見えたとの伝承がある。(5)泰阜村金野(きんの):花崗岩類の地質からなる。山崩れで荒れた田が24ヶ所あり、その内12ヶ所は現在も使われている地名である。場所が特定できた12ヶ所と特定できなかった12ヶ所を含めて、幅約1.5kmで長さ約2kmの範囲内で24ヶ所の災害密度はかなり高い。(6)遠州「てうな」(静岡県浜松市横山町):「遠州『てうな』という所で天竜川が止まった」という文書が見つかった。現在この地名は使われていないが、『雲名』(うんな)という地名があり、この付近で天竜川がせき止められたと推測した。この地震で天竜川が2ヶ所でせき止められたことが分かった。
3,議論と考察
(1)調査して見えたこと:飯田市南信濃和田の中央構造線沿いを震央として見つかった地震記録の分布はかなり偏っている。南北に近い方向で走る中央構造線を境にして、西側にしか被害の記録は見つからなかった。東側は赤石山脈でほとんど人が住んでいない地域であり、災害はあっても記録が残らなかったのである。また、300年の時間が経過し、様々な要因で記録が失われている。(2)地質的な特異性:地質の違いと地震災害の分布から3種類に分けられる。一つ目は、花崗岩類の基盤に発生した災害で、規模の大きな山崩れである。二つ目は、新第三紀層の中に発生した災害である。これは阿南町を中心に分布し災害記録も多い。また、花崗岩の基盤と新第三紀層との境を走る富草断層が地震動を増幅させた可能性もある。三つ目は、第四紀の段丘礫層や扇状地礫層の上で発生した災害である。固結度が弱く柔らかい礫層では、人間生活に直結した家屋の倒壊や田畑への土石の流入が目立つ。(3)中越地震との比較:中越地震は、2004年(平成16年)に新潟県川口町の信濃川付近で発生したマグニチュード6.8の地震である。被害地域は新第三紀中新世から鮮新世にかけての地質である。約300年経った遠山地震の記憶は少なくなっているが、阿南町の似た新第三紀層での被害密度は似ている。(4)宝永地震との関連:1707年に日本の地震史上最大級のマグニチュード8.6の宝永地震が発生している。この11年後に遠山地震が発生している。すなわち、宝永地震の余震として遠山地震が発生したと見られる。
4,引用文献
気象庁精密地震観測室、2013、ウエブサイト、坂本正夫、1977、中央構造線総合研究連絡誌2、新編日本の活断層、1991、東京大学出版会、宇佐美龍夫、2003、東京大学出版会