日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-05_30PM1] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2014年4月30日(水) 14:15 〜 16:00 419 (4F)

コンビーナ:*大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、白石 史人(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、長沼 毅(広島大学大学院生物圏科学研究科)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、横山 正(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、中村 謙太郎(独立行政法人海洋研究開発機構 (JAMSTEC) システム地球ラボ プレカンブリアンエコシステムラボユニット)、座長:白石 史人(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)

15:00 〜 15:15

[U05-14] 沖縄トラフにおけるメタン酸化に依存した生態系にメタン濃度が及ぼす影響

*宮崎 ゆかり1砂村 倫成1石橋 純一郎2渡部 裕美3今野 祐多3鈴木 庸平1 (1.東京大学理学系研究科、2.九州大学大学院理学研究院、3.海洋研究開発機構)

キーワード:熱水噴出孔, シンカイヒバリガイ, ネッスイハナカゴ, メタン酸化細菌, 沖縄トラフ

メタン(CH4)は温暖化ガスであり、メタンをエネルギー源とする生物の出現は地球規模での気候変動に関与した可能性が指摘される. 堆積物に記録されたメタン酸化菌の活動による同位体組成の軽い有機物から, 当時の大気・海洋のメタン濃度を復元できることが期待されている. 現在の海洋においてメタンをエネルギーとして生態系が形成される海域は非常に限定的であり, 冷湧水域と熱水噴出域が挙げられる. 冷湧水域では堆積物中で嫌気的メタン酸化によってメタンが硫化水素に変換され, 同位体組成が軽くない硫黄酸化の化学合成生物に利用される. 一方, 熱水噴出域で大量のメタンが放出されるのは大陸縁辺の厚い堆積物を伴う海域で, メタン酸化菌と共生するヒバリガイが重要な一次生産者である. 沖縄トラフはメタンに富む多様な熱水活動域が報告されており, メタン濃度に加えて水深や火山活動がシンカイヒバリガイを代表とするメタン酸化に依存した生態系に与える影響を深海環境で観測できる数少ないテクトニックセッティングである.  沖縄トラフにおいて五箇所の熱水噴出域:中部沖縄トラフの南奄西海丘、伊是名海穴、与論海丘及び南部沖縄トラフの鳩間海丘、伊良部海丘で調査を行った。玄武岩質溶岩の露出した伊良部海丘を除き、おおむねどの噴出域でもデイサイトまたは安山岩を覆う厚い堆積物が見られる。与論海丘及び伊良部海丘を除く調査海域でシンカイヒバリガイが優占し,伊良部海丘ではシンカイヒバリガイ類は見られず、替わりに深海熱水性のフジツボ(ネッスイハナカゴ)が優占種であった。与論海丘では大型生物はほとんど見られなかったが, サイズの小さいヒバリガイが1個体だけ産状不明で採取された。 ヒバリガイがほとんど棲息しなかった与論海丘と伊良部海丘では, CH4濃度が2-9μM程度で低かったのに対し, 棲息するサイトではCH4濃度が〜80μM程度であった. 与論海丘とほぼ同じ水深の南奄西ではヒバリガイが棲息したため, 水深が主な制約ではないと考えられる. また一個体採取されため, 幼生分散による理由でもなく, メタン濃度が分布を制約していると考察された. 伊良部海丘で見られたフジツボは触手に繊維状の外部共生菌が伴うため, この外部共生菌のエネルギー代謝を分子系統と炭素同位体組成から硫黄酸化であることを明らかにした. 従って, 伊良部海丘においてもメタン濃度が低いためヒバリガイが棲息しないことが示唆された. 以上の結果から, おおよそ10μMのCH4濃度が軽い同位体組成を伴うメタン酸化に依存した生態系が成立するためのしきい値であり, 大気中のメタン濃度の復元に繋がると期待される.